第22話 前途多難な道程

 無理だ‥。


 キジマグ様は我らの事を思い下さり、獣人族20000人という膨大な難民を引き受けると仰られたが、不可能だ。

 難民は着の身着のまま逃げて来た者が多くまた食糧を持っていても数日分あるかないか。

 エルフの代表も言っていたが、10000人これが限界なのであろう。それでもかなり無理を言ってくれているに違いない。


 であるならば、こちらでなんとか連れていく者を10000人選ばなくてはならない。幸いにも仲の悪い部族もいるのでそこからまずは減らさねば。また、キジマグ様の事を信んじている者も今では少ないから、そこは言わない方が言い。言ってしまえば何がなんでも着いていく者が現れる。


 そしてここから昔の城塞都市カルメンなら徒歩で10日前後、ラスマータ王国の王都が5日であるから、上手く誘導していくしかない。


 なんにせよ、キジマグ様に恥はかかせられない。こちらが憎まれ役になってでも‥。


 ムーラムはそう決意を新たにするのだった。





◇◇◇




 話し合いは一旦終えるが、マーバイン王国の隊長であるムーラムに獣人達へと説明をお願いするが、まだ聞かなければいけない事もある。


 「一応まだ便宜上エルフの国なんだけど獣人達は受け入れできそうだ。ただ、獣人達にも選択肢はあるし、行きたく無いと言う者も出てくるだろうがそれは構わない。逆に行きたいと言う獣人達は、ここから徒歩で10日ほどの道程みちのりになる。食べ物は野菜や果物なら分けてあげられるんだけど、20000人もいるなら満足には無理だ。また住む所も半分は都市外に最初はなる。それでも良ければ着いてくるといい」


 「キジマグ様、多数のご配慮誠に有難う御座います。こちらとしては、一切問題ございません。受け入れて頂けるだけで、光栄の極みです。今すぐに避難民の元に行き、説明をして参ります」


 ムーラムはそう言うと、部下と共に獣人達の方に走っていった。

 また、都市の方には見張りを付けているがどうやら魔物は都市外にはでてこないようだ。


 また帝国軍も近くの場所で待機しているらしく話だけは通しておく。

 帝国軍には昨日、竜眼をあげたおかげか好感度があがったようで、見張りの歩兵にも嫌な顔をされずにすぐに第3皇女との面会が叶う事になった。歩兵に道を案内されると大きめの天幕が張ってあり、そこへみんな通される。


 「いきなりですいません」


 「いやいや、貴殿ならいつでも構わないよ。ただ残念な事にマーバイン王国がこんな事になってしまったがね。そして大量の避難民もいるときてる」


 第3皇女ことサナリーは、今回のマーバイン王国を助けられず遺憾の意を表す。


 「その事なんですが、避難民は出来たらみんな引き受けようかと思っていまして。このままほったらかしでは飢えて盗賊にでもなると村や町を襲うかもしれませんし」


 「ふむ、だがしかし避難民は20000人程いると聞いているが全部は無理だろう?」


 こちらを問い詰めるように、サナリーは質問してくる。


 「ですが、ほっとけませんので」


 苦笑いをしながら、サナリーへ返答するが

彼女は見定めるようにこちらをじっと見つめる。


 「正直な所、不可能に近いとおもうのだが仮に出来たとしても必ずいざこざが起きるだろう。だが貴殿には大いに期待していてね、交換条件で良ければ避難民5000人を一時的に引き取っても良い」


 「それは大変有り難い事ですが、交換条件とはどう言ったものでしょう?」


 「いやなに、そう難しい物ではないよ。3つあるのだが、まず1つ目は貴国との国交の樹立と貿易。2つ目は落ち着いたら国賓として帝国にきて調印式に出て欲しい。3つ目は精霊の実を少しばかり分けて欲しい」


 何か落とし穴が無いか、じっくりと聞いているが何処もおかしい所は無く、むしろこちらにとっても嬉しい話ばかりだ。竜眼ならばいくらでも出せる。そしてすぐ後ろにいるネイシャを見つめると、頷いてくれる。


 「こちらとしては有り難い話ばかりですね」


 「個人的に貴殿を敵にしたく無いのだよ、世界の異変が多数起きている中で、この先生き残るには貴殿と協力した方が良いと思っている。さらに言えば魔物の脅威は益々増えるだろう。王都を崩壊させその次は?東のドワーフか、西のシーアルバ、はたまたラスマータか、帝国か正直わからん。だが世界的にかなり不味い状況なのは、誰でも分かるさ」


 「なるほど、、、わかりました。ではその3つの条件で是非お願いします」


 了承後すぐに竜眼を10個作成し、サナリーに渡す。これで避難民5000人引き取って貰えるなら安いものだ。


 「うむ。正式な事は貴国がまずは落ち着いてからになるだろう。避難民がやってくるとまず忙しくなるはずだ、その後帝国に来てもらった時にでも話し合おう。こちらも帰国次第皇帝陛下にこの事について、意見具申をするつもりだ。当たり前だが、私には帝国についての決定権は一切ない。だがこれを蹴るなんて馬鹿は帝国にはいないよ」


 くくくとサナリーは笑う。


 まさか決定権もないのに話を纏めて大丈夫なのか?と疑うような眼線を向けると、先ほどあげた竜眼を指さす。

 なるほど、交渉を有利に持っていくための竜眼か。

 

 「分かりました、これから宜しくお願いします」

  

 そう言うと、サナリーは頷くのであった。


 サナリーとの話が纏まり、ムーラム隊長を待っていると約3時間後に漸く決まったようで10000人がこちらにやってきたいと懇願があったそうだ。

 どうやら他の国やラスマータ王国にいく避難民が多いようで、思っていたよりかなり下がったのでビックリしたが、帝国の避難民5000人の受け入れ話をすると話しがトントンに進み、こちらに来る10000人のうち5000人を帝国に引き渡す事になった。

 結局こちらに来る獣人達は、隊長含めて5500人となるのであった。


 ネイシャは物凄く安堵していた。


 だが初めての避難民受け入れのため、これから前途多難な道程を突き進んで行かなくてはならない。

 正直避難民受け入れは、後悔が無いとは言い切れないが、今は信じるしか無い。


 (ポポなら大丈夫、みんなついてる)


 ポポの温かい言葉に、不安な気持ちがグッと楽になるのであった。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る