第21話 キジマグ様

 マーバイン王国が、衰退を辿っていったのは3年前の魔物のスタンビートからと言われている。だが実際は違うと長老達が言っていた。

 遥か昔、我々の御先祖様は竜魔の森で動物や魔物を狩りそして森の恵みを頂き、感謝しながら暮らしていた。だが一部の部族が人間達と取引をし、便利な暮らしが出来ると人間の街に住むようになっていった。これが間違いだと長老達は口煩く言っていた。

 キジマグ様は森の精霊様で御先祖様が森で暮らしていた時に信仰していたのだ。

 困った時には手助けしてくれ、恵みや奇跡を与えてくださる。

 だけど今の獣人達は長い年月を街で暮らす事に慣れてしまい、キジマグ様の事を忘れてしまった。


 それが罪であり、罰なのかもしれない。


 正直な所、自分もキジマグ様の事を全く信じていなかった。だから長老達が何か言っていても気にしなかった。


 だが、スタンビートから今までで3つの町を魔物に襲われ、残るのはこの王都タザリームのみになる。

 魔物の大軍勢が、この王都を攻め込む様子が見られると、逃げられる住民はラスマータ王国に避難した。だがおよそ60000人もいる住民が全員避難出来るわけじゃない。

 避難できない住民は20000人もおり、他国では暮らしていけない貧民層であった。


 前からラスマータ王国とガリバリアル帝国には救援を求めていたのだが、ガリバリアル帝国からの返事は芳しくなかった。今回ラスマータ王国が骨を折ってくれ、ようやく帝国からも救援の約束をしてくれた。

 

 以前から度々魔物の襲撃はあったが、今回の襲撃は類を見ないものだった。およそ30000もの魔物が跋扈ばっこし、とても耐え切れるものではなかった。

 魔物の軍勢は二手に分かれ北門と南門を挟み込むように攻め込んだ。ただ、ラスマータ王国とガリバリアル帝国、それにキジマグ様が南門の魔物を倒してくれた事で住民達は脱出する事が出来た。


 それに、あの時死ぬ運命だった自分を助けてくれたのは間違いなくキジマグ様だ。

 あの市街戦の時に殿を務め、住民達を逃すために戦っていたのだが多勢に無勢で、見る見るうちに味方は魔物の凶刃に倒れていった。

 だがその時に助けに来てくれたのが、キジマグ様だ。倒れ伏していた者に精霊の実を食べさせて頂くと、精も根も尽き果てていた身体が、すぐに傷は癒え活力が溢れ出した。

 何よりあの美味さだ。初めて食べる味でこんなに美味い物を食べた事がない。

 こんな奇跡誰が起こせるっていうんだ。


 その後は、南門まで無事切り抜ける事が出来た。そこで改めて、キジマグ様から有難いことに精霊の実を全員分頂くことが出来た。

 やはり食べた者は皆、あまりの美味しさに感動してさらに活力が溢れキズも癒えるのだから凄まじい効果である。

 その後はキジマグ様に丁寧にお礼を申し上げると、今後の事について聞かれる。

 

 「この後は何処か逃げる当てはある?」

 

 「いえ、逃げ延びた住民含めて全員根無草になりましたので、元々ここにいた20000人の住民はお金がないため他国に避難する事が出来ませんでしたので」

 

 キジマグ様は少し考えられる素振りをされ、ついて来て欲しいといわれるので部隊全員で後ろをついていくと、キジマグ様の眷属だろうか、かなりの数の木人とギガース級の木人まで列をなしているのが見えた。


 「ム、ムーラム隊長、精霊様の眷属が大量にいらっしゃいますね」


 「ああ、やはりキジマグ様に違いあるまい」

 

 部下の1人に話しかけられ、頷いていると前からメイドのような騎士が出迎える。そのまま少し進むと、どうやらエルフ族や人族も少ないが居るらしく、話し合いをしていた。

 城塞都市カルメンが、エルフに与えられ独立したことは少しだけ聞いた事があったが、まさかキジマグ様もそこに住まわれている事までは知らなかった。

 まだエルフの都市にはまだ空きがあるそうで、元々人族が住んでいた事もあり10000人は受け入れられるとエルフが話す。

 だがここでキジマグ様は信じられないことを話し出されるのだった。





◇◇◇◇





 故郷を追われる獣人達を引き連れて、ネイシャの元に向かうその途中で、ナギに出迎えて貰う。木人達は皆綺麗に列をなし待機している。


 「おかえりなさいませ」


 「ただいま、ナギ。都市内で偵察の時に獣人達を少しだけ保護をしてね、ネイシャはいるかな?」


 「すぐ近くにおられますので、ご案内します」


 そのまま少し歩いた先にネイシャやララシャ、アライナの3人が集まっていた。

 挨拶もそこそこに、敵がまだこちらを追ってくるかもしれないため要件だけを話す。


 「早速で悪いんだけど、今いる獣人達約20000人とここにいる500人をこっちで引き取れないかと思ってね、どうかな?」


 「え、20000人ですか!?うーん、頑張って10000人なら受け入れ出来るかもしれませんが」


 「もし10000人のみ受け入れた場合は、残りの獣人は飢えに苦しみ野盗になって村や町を襲うかもしれない。ラスマータ王国も見た感じこれ以上受け入れは難しいはず。だからこちらで、都市拡張をしてでも受け入れたいとおもう」


 ただエルフ族は外に出ている者を含めてもおよそ1500人、獣人たちは20000人とくればもうエルフの国とは言え無いかもしれないが。


 ネイシャは真剣な顔で思い悩んでいたが、答えが決まったのか迷わずに発言する。


 「前から皆で思っていたんですが、森の精霊様のおかげで旧城塞都市も守れたわけですから、森の精霊様の国にしてしまえばいいのではないかと。現に今の食物の糧は殆ど頼りきりになっておりますので、森の精霊様がいないとあの都市は維持も守る事も出来ませんので」


 ネイシャの言葉に少し言葉が詰まり、思案しているとポポから助けがくる。


 (それで良いんじゃないかな、何をするのにも許可を取ってたらできない事もあるからぺぺが色々決められるならそれが一番)

 

 確かに、これから魔物や魔族の事も考えれば仲間は多い方が良いと最初に決めていたことだ。何よりフォレストドラゴンと世界樹の力で、食料問題は解決出来るはずだ。

 20000人は予想外だけど。

 ついこの間まで、傭兵団団長とか言っていたのが、今ではとんでもない規模にまで拡大してしまった。

 だがこの先生き残るには、躊躇している場合では無い。


 「わかった。獣人達を放ってはおけないからネイシャの言う通り、それでいこう」


 ネイシャ達も頷いてくれなんとか収まる事が出来た。その後は助けた獣人の兵達を紹介し、一時的に獣人の隊長ムーラムに獣人の避難民のことを任せる。


 こうして前途多難ではあるが、新しく森の精霊の国が作られる事になるのだった。

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