第20話 つわものどもが夢の跡

 付近の魔物を一掃し一息ついていたところ近くにある城門が、重低音を響き渡らせながらゆっくりと城門が開いていく。

 城門内から堰を切ったように、獣人が這う這うの体で逃げ出してくるのが見えた。

 こちらにも何か叫びながら走っていくのだが、やはり言葉が理解できない。だがこの必死さは尋常じゃないため、翻訳してくれる人を探していると、冒険者のアライナが翻訳してくれた。


 「北城門から魔物が雪崩れ込んだそうです!そのためまだ残っていた住人はここ南城門から逃げようとしていたらしいのですが、ただここも魔物が来ていて逃げられ無かったそうです」


 なるほど、それならこの状況にも納得がいく。そう話している間にも、城門からは次々と獣人が脱出してくる。

 ラスマータ王国の王都に難民が避難して来たそうだが、まだどこにも避難出来ずに残っていた住民も数多くいそうだ。


 残念ながら王国軍は撤退してしまったので帝国軍の方に、今後の方針を聞かなければならない。そう思案していると、ありがたい事に帝国軍の伝令がきて打ち合わせをしたいと打診がきた。

 魔物がすぐに迫っているかもしれないが、攻めるか逃げるかをすぐに決めなければならない。木人達には何かあった時のために臨戦体制のまま待機させておく。


 そのまま伝令についていくと、第3皇女とガナッドが今か今かと待っていてくれた。そして挨拶もそこそこに本題に入る。


 「いやはや凄い軍勢だな、っとすまない今後の事を話さないとな。こちらからも獣人が逃げてくるのが見えた。どうやら北門から魔物が雪崩れ込んだとのことだが、王国軍は残念ながら撤退しているようでな。こちらは残存兵力は8割といった所だ、まだ戦えるとは思うが敵がさらなる大軍ならかなり厳しくなる。さらに都市内部の様子は大分酷い有様らしくてな、正直この辺りが潮時かもしれん」


 確かにここで引き際を見失うと、後が大変な事になるだろう。それに今回は魔法使いである上級種が奇襲を受ける形だったから、こちらが受ける魔法の被害はまだ少なかった。

 これがそうでなかったら、さらに被害は広がっていただろう。それに中級木人は火魔法にとても弱い弱点も抱えている。


 「そうですね、撤退しましょうか。ただ少しだけ少人数で敵上偵察をして、戻ってきます。機動力を生かして、ある程度敵の戦力も把握出来れば御の字、もしまだ生きている人がいれば助けておきたい所です」

 

 第3皇女は何か言いたげにしたが、無理はしないようにと言って送り出してくれた。

 そしてすぐに自軍のエルフ達の元に戻ると、これからの方針を伝える。

 

 「帝国軍と相談しこれから撤退する方針になった。ナギは木人の撤退指揮をしてほしい、ドレークとエルジュは僕と一緒に敵上偵察をした後に撤退をする、もし助けられる人がいれば無理はしない範囲で助ける、以上だ」


 ナギは少し何か言いたげだったが、了承してくれた。そして時間もないのですぐさま行動に移す。

 城壁の上からの方がよく見えるため、城門付近からエルジュの土魔法で城壁まで届く階段を作ってもらい城壁へ登っていく。

 

 城壁の上に移動すると、魔法でやられた死体が周りにかなり残っている。しかし、足を止めずに出来るだけ早く北城門方面を目指し、走っていく。

 そのまま北側に移動するにつれ奥に見える住宅から、火が燃え上がっており煙の量も増えている。


 そしてまだ下の方では、逃げきれていない住民達が南門を目指して必死に走っている。


 「まだ住民はかなり残っているな」


 ここ王都タザリームが陥落すれば、マーバイン王国は実質無くなってしまう。だがこの敗戦の流れを止める事は難しい。


 「主人よ、あそこを見てください。殿でしょうか?まだ戦っている部隊が見られます」


 エルジュが言う方向に視線を向けると、500人程の兵士や傭兵が煉瓦の住宅街で遅滞戦闘を行っている。徐々に前線を下げているようで住民のために時間を稼いでいるみたいだ。だが魔物の数は簡単に数え切れないほど膨れ上がっており、このままではかなり分が悪いのは誰の目にも明らかだ。そして倒れ伏している者も徐々に増えていっている。


 「あそこを支援して、こちらも撤退しよう。偵察は大体できたし、魔物は多すぎて数え切れないが20000以上はいそうだ」


 「「御意」」

 

 そのまま少し近くに移動していくと、怒号と火魔法の爆発音が辺りに木霊する。激戦区に土煙が舞い上がる中、ドレークは風魔法を使い城壁の上から飛び降りると先行し、魔物の最前列に楔を打ち込む。


 「グギャア!?」


 優勢だった魔物達は突如振り翳された暴力に、なす術もなく絶命する。

 魔物達がギョっとして隙ができている間に、エルジュが土の壁を獣人と魔物の間に築き上げる。つまりドレークは土壁を背に1人で魔物達を対峙する事になる。

 その間に柔軟性のある蔓を城壁に引っ掛け、ゆっくりと下に降りていく。獣人達は驚愕の表情を浮かべているがここで説明しても通じないため、先ずは息があり倒れ伏している獣人に無理やり竜眼を食べさせていく。


 「うまああい!?あれ、、、生きてる?」


 そんな言葉を無視して、次々に食べさせて行く。倒れ伏している50人程に竜眼を食べさせた後は、すぐさま撤退の号令をかける。


 「言葉が分かるものは聞いてほしい、すぐに南城門に向けて撤退する」


 まだ竜眼をあげれていない獣人もいたが、竜眼を食べた仲間が翻訳して撤退を開始する。

 エルジュが作り上げた土壁は魔物の攻撃によりボロボロになっていたが、ドレークはお土産のヤドリギさえ持ってくる余裕があった。


 そのまま南城門を目指し、エルジュとドレークが殿を務め魔物へ魔法を打ち込みながら撤退していく。どうやら残っていた住民は逃げきれたようだ。


 魔物達の追撃を退き、無事に獣人達を連れ南城門を抜ける。そしてすぐにエルジュが土魔法で門を塞ぐ。

 すると豹の頭をした獣人がいきなり膝を突き、喋り出した。


 「キジマグ様、命を救って頂き誠にありがとうございます。貴方様のおかげで、魔物から逃げ切れる事が出来ました」

 

 キジマグ?キジマグとはなんだ?こちらは思い当たりが無いのだが、獣人達は明らかに視線をこちらに向けている。

 

 (ポポはキジマグってわかる?)


 (うーん、わからないけど森の精霊を指してるのかな、昔は土着信仰とかで祀られていた精霊もいるから)


 なるほど、それなら合点がいく。今は時間がないから、従ってくれるならそのまま勘違いして貰う形でいく。

 

 「済まないね、皆を救えずに。今は少し時間の猶予が出来たから、まだ食べてない者はこれを食べてほしい」


 そう言い竜眼を獣人達に食べさせていく。中には涙を流しながら食べている者もいるが美味しさ故なのか、はたまた故郷を追われた悲しみからなのか、この時は分からなかった。


 

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