第19話 夜間行軍のその先は
ラスマータ王国から出発して、色々な事があった。王国軍と帝国軍は相変わらず仲は良くないようで、仕方なく付き合っている感が透けており、この先不安しか感じられない。
個人的には帝国軍の方が話が分かるので、この行軍中では交流を深め帝国軍全員に竜眼と手軽に食べられるバナナをご馳走した。そのおかげもあり、最初の感じていた嫌な視線が無くなり柔らかくなった。
しかし4日目の行軍が終わり野営準備中に、困った出来事が発生してしまう。王国軍がどうやら相談もせずに独断で、行軍を再開させてしまったようだ。
すぐに帝国軍に話を聞きに行くと、どうやら斥候の調査でマーバイン王国が大分不味い事になっているようで、さらに魔物の数も増えている可能性が高いとの事だ。
それ故にこの日暮れから行軍を再開させたのであろう。まあ判断は間違ってはいないのだろうけど、もう少し配慮は欲しかった。
仕方ないので、このまま王国軍の跡を追い夜間行軍へと突入する。
しかし夜は日光浴が出来ないため、疲労が溜まりやすいためあまり動きたくないのだがそうも言ってられない。せっかく救援に来たマーバイン王国が滅んでは元も子もない。
そのまま日中よりも、ゆっくりとしたペースで歩き続けると王国軍の後ろをこちらの先行部隊が見つける事が出来たが、大分へばっているようだ。
そのまま小休止を挟みながら、長い間歩き続けると周りも少し明るくなり始め、夜明けを迎える事になる。
すると漸くマーバイン王国の首都タザリームが見えてくるのだが。
「煙がかなり上がってますね‥」
隣にいたエルフのネイシャが、哀愁の帯びた顔つきで悲しそうに呟く。以前の魔物との攻防を思い出しているのであろうか。
また遠くてハッキリとは見えないが、城門前にはかなりの数の魔物がいるのだけは間違いない。
つまりはまだ陥落していないはずだ。
どうやら間に合ったようだ。
早速会議で方針を決めるのかと思えば、伝令がやってきてすぐに突撃を敢行する旨を伝えて来た。兵は拙速を尊ぶと言うが、そんなバテ切った兵士を連れて大丈夫だろうか?
逆に帝国軍は王国軍より重い鎧を着てるはずだが、疲れは少なさそうだ。少しは竜眼効果があったかもしれない。
そのまま王国軍、帝国軍もますば傭兵を先陣にするようなので、こちらにいるドレークとエルジュ、そしてナギも傭兵組へと派遣し、1番重要なヤドリギでの回収を任せる。
しかし、城塞都市カルメンの時とは魔物の種類が違うように見えた。明らかに大きい魔物が数多くいるようで、前よりかなり苦戦しそうだ。
しかし報告から聞いていた数より少なさそうでおよそ10000程が、この城門に張り付いていそうだ。
「王国軍突撃せよー!!」
「第七騎士団前進せよ!」
そう考えていると王国軍、帝国軍から号令がかかり一斉に進軍しだす。この大軍での軍靴の足音で魔物達はこちらに気付き始めてしまうが、仕方ない。
少なくとも、奇襲という形であちらは後ろがガラ空きになっており、厄介な上級種が前に出る形となるためこちらとしては好都合。
エルフ達は射程範囲に入るや否や、矢を乱れ打っていく。それが面白いように上級種を討ち取っていく。
また王国軍、帝国軍は左翼と右翼から魔物を包囲しつつ攻勢を強めていくように思えたが、どうにも様子がおかしい。
オーガの3mでも大きかったのだが、それよりさらに大きく5m程の巨人が、接敵とともに暴れ出してしまった。それも10体はいるのだからたまったものじゃない。
魔法使いが、その巨人に向けて集中砲火を与えるがなかなかに防御力もあるのか、膝をつくことはなかった。
王国軍は巨人たちの攻撃により、大分やられてしまい傭兵組も魔法により数を減らされてしまう。
今回は傭兵に特A級が参加している事もあり、大分健闘しているようだが状況は芳しくない。
「あのおっきな巨人かなり手強いね」
武器もなく拳を振り払っているだけなのに兵士が紙屑のように吹き飛んでいくのがここからでも見える。
巨人のことを呟くと、ネイシャがあの巨人の事を教えてくれる。
「あれはギガースですね‥。中級種だそうですが、魔法の使える上級種もいるとすればかなり厳しいかもしれません」
魔物の評価では、ゴブリンやオーク等の下位種、さらに上のボブゴブリン、ハイオーク、オーガ、ギガースあたりが中級種、魔法が使えるのは全て上級種と言うらしい。
しかし王国軍なんかは、半分以上がやられてしまい、潰走寸前にまで士気が下がっているのがわかる。奇襲したおかげで上級種をかなり討ち取る事が出来た序盤は良かったが、今はかなり押され気味だ。
エルフ達の援護射撃でも、ギガースがケロッとしている位には強い。
だがその中で、獅子奮迅の大活躍を見せている者がいた。そう、こちらの眷属だ。
ドレークはギガースの頭まで飛び上がり、首を綺麗に跳ね上げ、エルジュは格闘術と土強化で真っ向から殴り勝ち、敵を地に伏せる。
ナギは両手剣で器用にアキレス腱を切りふらつかせた所に、心臓を突き刺す。
だがドレーク達が局地戦で勝ててはいるものの、全体的には押されている。
特に王国軍は疲労もかなりあり、兵力が半分を切ってからは次々と潰走していく。
左翼の王国軍が潰走する中で、右翼帝国軍は堅実に攻めており、無理に突出しないようにしているが、少しずつ兵力を減らされているようだ。また王国軍が抜けたため片翼包囲となり、少し不味い。
このままでは負けてしまう可能性が高いため、エルフ達を後方支援に徹しさせ、前線へと向かう。
ヤドリギを腰蓑にたくさん貼り付け、前線に辿り着くと死屍累々の様子が目に入る。
息も絶え絶えの傭兵が沢山いるため、問答無用で竜眼を口に入れ飲み込ませる。その中によく知っている顔の暁月夜の水平線団長も、紛れ込んでいた。
「ありがてぇ」
「まだこんなとこでくたばっちゃ駄目だよ」
魔法でやられていた傭兵を竜眼で回復させ、少しでも前線を立て直す。
勿論、このままでは足りないため新しく戦力を増やすために地に伏しているギガースのもとへ行く。
ドレーク達が倒した3体のギガースは、目の前で見ると圧倒される大きさがある。
すぐにヤドリギで栄養を回収するが、吸収速度を上げるためこちらも手伝う。
そしてそのまま回収した栄養をギガース程の大きさの木人を3体呼び出し戦力として投入するしかない。
下級の木人は戦力としては弱い上に喋る事が出来ないが、沢山数が作りやすく雑事にむいている。
今回呼び出す中級木人は、戦力としても十分で喋る事もできる。
(良い子が生まれるようにがんばる)
ポポも頑張ってくれるようだ。
ヤドリギ3体を地面に置き、少し考える。今回は上級木人とは違い中級なので名前は付けない。
そのまま集中し巨人のイメージをすると、地面が軽く左右に揺れ、ズズズと低い音を立てながら3体の巨大な木人が現れる。先ほどの倒したギガースよりさらに大きくなっており、身体には木の皮ではなく木目調が見受けられた。
「ゴメイレイヲ」
「ドレーク達と一緒に魔物を倒して」
「ギョイ」
上級木人のドレーク達とは違い、言葉は辿々しいが十分だ。
さらに王国軍が抜けた穴を埋めるために、次々と大きさの違う中級木人を呼び出していく。
そのおかげもあってか、徐々にこちらも押し返す事が出来るようになった。魔物が倒れればすぐに木人を作り出し戦力を増やしていくと付近に魔物はいなくなるのであった。
「ギガース級の中級木人10体に、オーガ級の中級木人は80体、他の中級木人は5000体か」
もちろんヤドリギとして大量の吸い出した栄養が残っている。また余りにも数が多かったので、ドレーク達にも栄養を取って貰っている。
「す、凄い軍勢ですね‥」
ネイシャが木人達の軍勢を見て顔を引き攣らせていた。
なんとか、魔物を排除出来たかと一息ついていると閉ざされていた城門が、いきなり開きだし中から獣人の行列が叫びながら飛び出て来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます