第18話 第3皇女サナリー=フレイフル

 帝国の皇族たる者、無能は皇族にあらず。父たる皇帝は自他共に厳しい人だった。四男三女の子供の中では、正室で1番最後に生まれた末娘の私も例外ではなかった。


 ガリバリアル帝国では、15歳から成人として認められる。私も15歳を迎えた昨年から色々な公務を経験する機会が与えられた。 幼い頃から家庭教師を付けられ、文武両道である事を求められた。他国の王女では武の方はあまり聞いたこともないが、軍事関連の家庭教師ガナッド=ワールワンには厳しくも時には優しく鍛えられてきた。


 しかし、1番の問題だった宿敵とも言える連合国とは戦争等色々あったが、時代の流れが変わり始めたと感じたのは丁度3年前に遡る。


 他国に潜入していた間者から、竜と魔族の大戦争が起き世界樹が消滅したと聞かされた。

 所詮は遠い異国で起きた事、そう最初は思っていたが1年、2年と経つごとに何故か農作物の収穫量が少しずつ下がっていった。

 帝国領土は広大で、作物の取れ高が全て下がっているのは近年類に見ない。また帝国だけではなくどうやら他国でも同じような状態になっているらしい。

 また帝国では、魔物のスタンビートや大群等もないためマーバイン王国が魔物に攻められているのを聞いて、他人事にしか思えなかった。

 そして最後は気温の低下だ。

 これはまだ深刻なものでは無いが、学者が言うにはこのせいで農作物が枯れやすくなっているのではないかと指摘している。


 このまま農作物の収穫量が下がり続ければ不味い事になる。さらに問題なのはまだ一部の者にしか、この危険性に気付けていない事だ。ほとんどは連合国との戦争の事で頭が一杯なのだ。


 また一般的に第3皇女という身分は大きい、しかし手足になる味方は案外少ないのだ。

 そのため今後の先を見据えて、帝国軍の騎士団を新たに立ち上げるために行動する。表向きは、作物の収穫率が下がり農民の食い扶持を補うために、それと連合国に大しての兵力増強。

 身勝手な言い分だと騎士団の新設など通らないが、あくまで前者であげた理由で通したため皇帝に認められた。

 もちろん、騎士団立ち上げにはガナッドにも協力してもらう事にした。


 そのまま、6ヶ月で最低限の兵士に成長する事が出来た第七騎士団は、団長をこの私が務め副団長にガナッドを据えた。この騎士団はこのままマーバイン王国への援軍になる。魔物との戦闘は皆ほとんどなくこれが初陣なのが殆どだ。


 そしてラスマータ王国に入り、会談に入るが全然話にならない。王国の指揮官はレグルス=マルテーヌ侯爵という男だったのだが、指揮権を統一するために、私にその下に付けと言うのだからあり得ない。


 ただ、予想外の出来事もあった。

 そう森の精霊がまさか存在したのだ。


 実際に見た目からして、草を被ったような風体をしていたのだが、普通に考えれば蛮族並みに酷い恰好であるため警戒していたのだが、突然差し出してきたのが精霊の実と思われるものだった。

 最初は聞こえなかった言葉が、その不思議な実を食べた後は何故か言葉がわかるようになっているのだから、森の精霊と信じる他ない。

 さらに目を疑ったのが護衛と思われる、森の精霊の眷属である騎士達だ。

 見たことのない鎧を装着しており、特にドレークという騎士は背も高く異才を放っていた。なかなかここまでの騎士を見られることは少ないため、思わず唸り声をあげてしまった。


 その後は、ラスマータ王国側のことやエルフの国や竜魔大戦争の知っている事を教えて貰う事が出来、ここまできた甲斐があった。

 もしかしたら、作物の収穫量の原因をこの精霊が解決してくれる可能性もあるため、是非我が国に来てほしい事も勿論伝えた。


 その後ラスマータ王国とは、指揮権は各々で持つ事となり漸くマーバイン王国への出陣となるのであった。


 マーバイン王国へは、ここ王都から約5日で着くという。嬉しい誤算であったのが、丁度行軍して4日後に森の精霊が帝国軍との交流という事で、兵士全員に精霊の実と見た事ない果実を全員に振る舞ってくれた事だ。10000人の兵士全員にだ。


 普通に考えてあり得ないがこの時に確信する、帝国の救世主になり得ると。


 またそのおかげで兵士達の士気がかなり向上し、何故か疲労も取れたようで助かった。森の精霊が作った作物は特別なのだろうか?


 そして明日は漸く、マーバイン王国の首都につく。そうなれば魔物との戦闘は避けられない。だがここで予想だにしていなかった事が起きてしまう。


 先にマーバイン王国へ斥候を出していた部隊が帰還し、驚愕の報告があがる。


 「王都は包囲されているだろうとは思っていたが、火の手も上がり陥落寸前。おまけに魔物の数はさらに増えて約30000か」


 帝国軍幹部が集まって報告を聞いているが皆渋い顔で黙っている。


 「これは不味いですなあ。状況がかなり切迫しているようです。兵士の事を考えると寝てから進軍するべきですが、それでは陥落している可能性があります」


 ガナッドが沈黙した場で喋り出す。この中で1番経験があるため、皆も注目する。


 「確かにな。だがラスマータ王国とも協力せねばさすがに30000は厳しいな」


 「失礼します!緊急の報告があります」


 会議の最中、突然伝令が来たのだから幹部の皆は訝しげにしているが、伝令を中へ入れて報告を聞く。


 「ラスマータ王国軍が、マーバイン王都の現状を知ったようですぐに進軍を開始しました!」


 「あの馬鹿どもが、こちらに相談しないままに進軍をするとは余程死にたいらしいな」


 思わず愚痴が出てしまう。だが放って置けば間違いなく、王国軍は負けるだろうしマーバイン王国も終わる。


 「致し方ありませんなあ。救援する国が崩壊しては元も子もないのは分かりますがの」


 ガナッドが呆れたように言うが、こうなっては仕方ない。


 「全軍、行軍を再開する。千人隊長は各部隊へ戻り指揮をとれ」


 「「「「ハッ」」」」



 



 

 

 

 

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