第15話 凶報は突然に

 ラスマータ王国王都の傭兵組合内にてザルバローレは、傭兵団炎天の流星の団長バーモスに鉢合わせをする。王都の近況の話をするがバーモスの話は自分の目を疑うようなものだった。


 「魔物との戦争だと?待て待て、ついこの前に旧城塞都市カルメンで魔物の大群と戦闘をしたばっかりだぞ」


 「ああ、その事は勿論知ってる。俺もその時入れなくてすまなかった。だが隣国の状況は知っているだろ?」


 3年前のスタンピードからツキが落ち始め今では王都のみしかないのは知っていたが。


 「王都の喧騒はそのせいで?」


 「御名答、まあ城塞都市カルメンからの移住者も多少はあるが。たださすがに隣国の王都が陥落したら不味いだろ?次は魔物がこっちに押し寄せてくるかも知れない」


 一難去ってまた一難か。


 「しかし、こちらの状況は大分悪い。この前の戦いで団員が半分近くやられてしまった。ララシャも片腕を無くして抜けてな。それで傭兵団を解散するために王都の傭兵組合に来た訳なんだが」


 解散の話を聞き驚愕の表情を浮かべたバーモスが、いきなり詰め寄り問い詰めてくる。


 「おいおい、マジかよ!?」


 「こっちはまだマシな方だ。C級、B級はほぼ壊滅している」


 バーモスもこの話を聞き、顔を青ざめている。そこまでの情報はどうやら伝わって無かったようだ。


 「続きはもう少し落ちついた所で話さないか?ここだとちょっとアレだしな」


 バーモスはそう言うと周りを見渡す。どうやら衆目に晒されていたらしい。暁月夜の水平線が解散するのも周りに聞こえてしまったようだ。


 「そうだな、落ち付いて飯でも食えそうなとこでも行くか」


 後ろに控える団員には自由行動とし王都に来た時に良く使っている宿屋を取るように伝える。

 その後、バーモスと共に近くにある料理屋に入る。あまり入った事がない所で看板からして高級感が漂っている。そのまま中に入るとすぐにウェイターがやって来て個室に案内される。席に座り軽い軽食を頼むが、値段が大衆店に比べて5倍は違うのを知る。


 「なかなか良いところだな」


 「だろ?まあちょっと内緒話もあったしな。今回は俺の奢りだ」

 

 そう言うとバーモスはニヤリと一瞬笑うが、すぐに真面目な顔に戻し話始めた。


 「隣国マーバイン王国の王都付近には、魔物がなんと約20000程いるらしい」


 「な!?」


 この前の死闘でも、約1000程だったのに20000だと?つまり3年前のスタンピード級と言える。あまりの事に言葉が詰まってしまう。


 「だが救いだったのはなんと今まで黙ってた帝国が救援にくる事だ。正直信じて良いのかわからんが、背に腹はかえられんのが正直なとこだな」


 「それはまた‥」


 帝国と言えば、帝国の南に位置するロズライ連合国と小競り合いを繰り返している問題児であり、軍事大国という印象しかないのだが。


 「まあ帝国もただ手を貸す訳じゃない、臨時同盟としてガリバリアル帝国、マーバイン王国、そしてラスマータ王国この3つで同盟を組む。内容は他国から攻められた時の共同防衛、通商通行条約が主にか。後エルフの国に出兵要請もかけたらしいぞ」


 確かエルフの国エマリーズが独立する時に出兵の事が書いてあったな。


 その後も、ウェイターが運んできた軽食を食べながら、エルフの国や森の精霊についても情報を提供しバーモス側からも話をさらに色々聞くことが出来た。

 しかし、あまり実りのある話は無かった事もあり、飯の味はあまり感じられなかった。

 

 「本当は暁月夜の水平線を解散したかったんだが今の状態は厳しいか」


 「緊急要請がかかってるし無理だろうな。仮にもA級だから国や傭兵組合員の方からも止められる。これがC級なら全く問題ないんだが、まあ報酬もとびきり良いからこの一仕事を最後に解散しようぜ!」


 肩をバシバシと叩き笑いながら話すバーモスにそうだなと答えたもののどこか虚ろであった。


 「出発は3日後だ、一応傭兵組合には顔をだしておけよ!」


 バーモスはそう言うと会計を済ませ、また3日後にと言うと颯爽と去って行った。





◇◇◇

 



 

 「森の精霊様、先程ラスマータ王国から使者が来まして、緊急出兵を請うとの要請が来ました」


 ザルバローレが出発してから丁度7日目の朝、今日も元気に農家を頑張ろうとしている時にいきなりネイシャから話しがあり、緊急出兵?確かにエルフが独立した時に、出兵の事は書いてあったがまだ7日目なんだけど‥。


 「‥詳細な内容はわかる?」


 「すぐに出兵準備を整えて、王都ラダールへ急行せよと。目標は隣国マーバイン王国王都タザリームの魔物の討滅。ガリバリアル帝国、マーバイン王都、ラスマータ王国の共同作戦。だそうです」


 まんまとしてやられた。


 元々これを狙ってエルフの独立を認めた感じなのか。しかも帝国も参加とは何か裏側ありそうな感じがするけど、大丈夫なのか。


 しかし前向きに考えるなら、帝国を見定められ魔物の栄養を沢山貰えるなら、悪くない。

 極力戦力は消費せずに、利益を得るしかない。今はヤドリギを全部使ってしまったから、補充と戦力拡充だ。

 さらに恩と顔を売る。


 一石四鳥作戦だ。


 「こちらの準備の方はどうなってる?」


 「防衛に400置いておき、300ならすぐにでも出陣できます」


 「分かった。じゃあすぐに号令ををかけて出陣しよう、僕も出るよ」


 まさか、僕がでるともつゆ知らずネイシャは大慌てで聞き返す。


 「森の精霊様もですか!?」


 「もちろん、ドレーク達も連れて行く予定。それに僕が行けば食糧はなんとでもなるから」

 

 軍隊の組織で大事なうちの1つに、兵糧は間違いなく上がる。だから、こういうときこそ輝ける。


 「そ、それはそうでしょうが」


 ネイシャはあまりにも恐れ多いと言った感じで畏まる。


 「大丈夫、大丈夫。さあ、号令をかけよう」


 不安なネイシャを宥めながら、ドレーク達にも指示をだす。今回はナギはお留守番にして、ここを守って貰おうと考えているとポポから何やら忠告が来る。


 (ナギも連れて行ってあげて、役に立ちたいと思っている)


 ポポの忠告を聞き、ナギの方を見る。普段と変わらないようだが、しかしここはポポの言う事を聞いておこう。


 「じゃあ、ドレーク、エルジュ、ナギ。準備が出来たら出発しよう」


 「「「御意」」」


 そうして、準備が整い終えたネイシャ率いるエルフ達300人とララシャ含めて一緒に裏技を使いながら王都まで強行軍で走り抜けるのであった。

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