第14話 ドラゴン農家

 ポポに促されて目を開けるとそこには、大きく質実な両開き戸がしっかりと巨木に植え込まれていた。

 後ろに控えていたドレークがすぐにドアを開け中に入ると、まず感じたのがハッカのスーッとした清涼感溢れる柔らかい匂いだ。

 そして1階は応接間で、イメージ通りの長めの長方形の机に6脚の椅子だ。空間の端には階段が上へと続いている。ただ光源がないので中は暗さが目立つがランタンなどで照らせば大丈夫だろうか?出来たら光る草とかあれば良いのだけど。


 (光草あるよ)


 ポポがそういうと、天上や壁に草が生えオレンジ色の花が咲き、優しい夕日のような暖色系の光源が生まれた。

 さすが世界樹としか言い用がない、取り敢えず何か植物に関してはポポに聞くのが1番だなと1人で納得する。


 その後も2階の食堂、3階客室に4階木人スペースを確認し、最後に5階自室に来る。

 

 2人用の机と椅子が置いてあり、他は自分が十分寝っ転がれる素のベッドが置いてあるのみだ。また、壁には木製の窓が設置されている。


 (巨木にヤドリギが吸収されたから、少しなら中を変えられる)


 取り敢えずは、今は必要最低限あるから大丈夫だろう。ひと通り内覧も済ませることが出来、十分過ぎるほどの成果を目にした。

 なので一旦巣作りはこれくらいにしておく。


 次はネイシャが言っていた作物を作らねばならない。むしろここからがフォレストドラゴンの真骨頂だ。エルフが食いつなげる位の作物を育て上げ、外の国に需要がありそうな物を売りに行くのもいいだろう。またこの世界では胡椒等どのくらいの値段がするのか調査も必要だ。


 お金を貯めて強い傭兵や味方を集めても良いし、魔物を倒して強化に当てても良い。

 この先生き残らなければならないのだ。



 だがまずは、ドラゴン農家だ。




 「ドレーク、エルジュの場所って分かる?ネイシャやララシャにエルフの好物を聞こうと思ってね」


 「それでしたら、少々お待ち頂けますか?すぐに聞きますので」


 ドレークはそう言うと少しの間立ったまま動かないでいたが、もしかしたら木人同士で何かやり取りをしているのかと推察する。その後、意外と早くドレークから声がかかる。


 「大変お待たせ致しました。聞いた所によりますとエルフは、辛い物以外の野菜や木の実特に甘い果物は好物だそうです。逆に肉等はあまり好まないとの事です」


 どうやら想像通りのエルフらしい。であれば、色々な野菜や果物を育ててみて何が良いかを聞いてみるか。


 そうして巨木から出ると、ナギと木人組は急ピッチで邪魔な建物を解体して運び出したり、石畳を剥がして運び出してくれている。


 特産品とするなら、果物やブドウを加工してエルフワインとして名産にするのも良いな。

 そんな事を考えながら、近場の解体が終わった場所から手をつけていく。

 まずはリンゴの木から育てていく。最初にイメージが大事なのはポポから習っている、木の高さは3m程で甘くて美味しいシャキシャキしたリンゴで大きさは拳よりやや大きく実が沢山なるようにイメージし、そして地面に両手をつく。


 するとズズズと広い範囲からリンゴの木が複数生えてき、瞬く間に成長を成し遂げた後にイメージ通りの赤いリンゴが沢山なった。


 リンゴを1個むしり取り味見をしてみると、以前自分の体から生やしたリンゴと同じくらいジューシーなリンゴが出来上がった。しかし、シャリシャリと美味しく食べていると、ふと頭の中で木人は野菜や果物は食べるのであろうか、ふと考えてしまった。

 その考えていた事が伝わったのかポポから答えが返ってくる。


 (ぺぺもそうだけど、本来は日光浴だけで栄養は賄えるから食べなくても大丈夫。ただ美味しさや多少栄養としても取り込める)


 以前ドレークがヤドリギだった頃は、食いしん坊という今では考えられない大食いだったので、今のドレークはどうなのか気になってしまう。


 「ドレークも良かったら遠慮なく食べてね」


 「御意」


 なんだか少し嬉しそうに感じたのはきっと僕の気のせいなんだろう。


 (気のせいじゃない)


 そんなポポのツッコミを有り難く頂戴しながら、解体作業や農家をする事7日間。

 漸く、土地の境界線に土塀や空掘も出来、土魔法の凄さも体感することが出来た。またエルフ達にも作物や果物を分けてあげるとものすごく喜び、こんなに美味しいものはなかなか食べれないと太鼓判も貰えた。

 このまま、みんなでまったり過ごしていくのも悪くないなと思うのであった。

 




◇◇◇




 エルフの国から7日間の旅路を行く暁月夜の水平線の団長ことザルバローレは、漸く王都が見え始めたのをきっかけに団員達が気になった。


 22名いた団員は今は半分程の12名まで減ってしまっている。それも森の精霊から特別な実を貰わなければさらに死人は増えたはずだ。しかしA級でこの有り様なのだから、B級やC級なんかはさらに酷い惨状になっている。


 解散か合併か、ただ生き残ったメンバーも身体の欠損があったりして戦える見込みが無いのもいるわけで。


 ふと後ろを振り向くと、団内5位のライクがこちらを見てきょとんとする。


 「あれ?団長どうかしたんすか?」


 ライクの軽く明るい声が、幾分か沈んだ気持ちを持ち直させてくれる。普段は煩くて堪らないが、こういう時にいてくれると助かる。


 「いや、漸く王都が見えてきたから皆の様子はどうかなと思ってな」


 後ろの方では、傭兵と兵隊らが列をなしゆっくりと進んでいるが見たところあまり表情は良くなさそうだ。


 それから、長い軍列はゆっくりと歩み一刻程でラスマータ王国の首都ラダールに到着したのだった。


 人口およそ80000人も住んでいるラスマータ王国最大の都市ラダールは、大きな喧騒の中にあった。

 

 「カルメンからの移住にしてはなんか様子がおかしいな」


 元々暁月夜の水平線は、カルメンで活動をすることが多かったため王都の事はあまり情報が無かった。


 「前来た時とはなんか違うっすねー」


 ライクも同意しているようで、少し情報を仕入れなければならない。同じA級の炎天か水光は交友があるので手っ取り早いんだが。

そう思いまずは傭兵組合を目指すが、兵隊らとはここでお別れだ。

 そして残った傭兵らで組合へと向かう。


 そのまま石畳みの道を歩いていると、一際大きな建物が見えてくる。王都の傭兵組合はかなりの傭兵団が所属しており、ラスマータ王国で唯一つの特A級の傭兵団もいるのだ。しかし残念ながら最上級のS級はいない。


 傭兵組合の前に立ち、重厚な扉を力任せに開いていく。すると中には、たくさんの傭兵で埋め尽くされており、中へ入り唖然としていると、見知った顔から声がかかる。


 「ザルバ!お前良いとこに帰ってきたな」


 傭兵団、炎天の流星団長のバーナスだ。


 「これから魔物との戦争にいくぞ!緊急要請だ!」


 ザルバローレは思う、この先生き残る事が出来るのか。

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