第12話 この木なんの木
いきなり、傭兵団の団長をやってくれと言われるとは夢にも思わなかった。しかし、簡単においそれとは承諾は出来ない。足枷が多い新興国な訳で、普通に考えれば借金はあるし周りには魔物もいるとなると厳しいだろう。
(ぺぺなら大丈夫)
ポポはどうやら背中を押してくれるそうだ。
「まずは冷静になって欲しい、暁月夜の水平線の団員はどうするんだい?急に解散となるとみんな困るでしょう」
暁月夜の団長は意地の悪い笑顔をすると、自慢げに話をしだす。
「それなら問題ないな。なんせ怪我人全員治してくれたんだぜ?団員は全員恩を感じてるし、この世界にそんな事を出来るやつは見た事ない。もちろん故郷や王都に帰るやつはいるだろうが、たんまり金貨は貰ってるんだその後は自分でなんとかするだろうよ」
確かに傭兵ならその言い分は分かるため、あまり反論できない。少しため息をつきながら、今度は冒険者のアライナに目を合わせ問答する。
「アライナ、君は王都の冒険者なわけですがそれが急に傭兵は畑が違うんじゃない?傭兵は、依頼があれば戦争にも駆り出されるわけだし、君には危険すぎるだろう」
「確かに冒険者は傭兵とは違います!だけど色々な知識がありますし、多種多様にお役に立つ事が出来ます。他国に行く時であれば、ある程度の言語は喋れるので任せて下さい!」
どうやら決意は硬いようだ。
そんな中ララシャがお願いしますとお辞儀をして来た。こうなったら、仕方ないか。
(少し楽しそうだね)
確かにちょっと楽しみではあるかな。でもそれ以上に苦労が多そうだ。もっと大変なのはエルフの国だろうけど、まあちょっとは手伝ってツテを広げていくのも悪くないはずだ。そう前向きに考えると心も安らいだ。
「団長の件は分かった。ただみんな一度王都に帰還して手続きとか踏まないと行けないと思うし。だから王都に帰還したついでに情報収集をして来て欲しいんだ。今回のことは腑に落ちないことも多いし」
みんなが頷き合ってくれる。
取り敢えず傭兵団結成はみんなが王都から帰って来たらする事にした。そうして身支度を整えるため帰っていく。そんな中、ララシャが1人残り申し訳無さそうに話かけてくる。
「森の精霊様には申し訳ないんですが、エルフの代表ネイシャさんが会いたいと言っておられまして」
ネイシャとは何回も会っている。エルフの女王と側近が軟禁されている現状では、代表を決めるのも一苦労しただろうし、この状況だと詰んでいるんだ。その大きな原因の一端は竜魔大戦争なんだけど。
「分かったよ、ついでに情報も整理したいし行こうか」
そうしてララシャに案内されながら城壁から下に降りネイシャの元に歩いていく。どうやら、こちらが来やすいように城門前で待っていてくれたようだ。
「森の精霊様、わざわざ御足労頂きありがとうございます。少し相談したい事がございまして、どうぞこちらへ」
ネイシャはそう言うと近くの空いている宿に向かう。この辺にはもう誰も住んでいないため閑散としている。
近くにある宿は意外と大きく、下は食堂もあるようでそこに座り話し合いが始まる。
「早速で大変申し訳ないのですが、ララシャから大体のお話は聞いておられるでしょうか?」
「ええ、大体は。ただ想像していたより凄い話を聞いたので驚きました」
「まさしく私どもに青天の霹靂と言った所でしょうか、ただ王国にとっては魔物の進行は良いきっかけだったのかもしれません。 元々竜魔の森周辺は良い耕作地で農業も盛んに行われていました。しかし、竜魔大戦争以降はこの辺は何故か草原しか生えず、穀物が育ち辛くなりました。
ただそれでも東の隣国よりはマシでした。魔物のスタンピードにより王都タザリーム前まで侵略されております。さらに東へ行けば行くほど気温が何故か下がるようです」
(寒さはもしかしたら、アイスドラゴンのせいかも。竜魔の森のかなり東側に竜峰山があるらしくて、そこから絶対に動かないって聞いた事がある。でもそのせいで世界はどんどん寒くなっているのかも)
なるほど。そのパワーバランスが崩れてしまったせいで今に至ると言うことか。魔物の活性化も案外世界樹の消滅、竜や悪魔の死骸とか関係あるかもしれない。少しポポと頭の中で会話していると、ネイシャが続きを話しだす。
「また、ここより西にいきますと海洋国家シーアルバがあります。海洋貿易が盛んでそれに伴い裕福だそうです。エルフのキャラバンや冒険者も良く行くみたいです。ずっと南の方にあるガリバリアル帝国は軍国主義で工業も推し進めているようです」
南の方は南で、きな臭い感じがあるとするなら国交を開くなら西のシーアルバ国だな。海に行って日光浴も良いし、魚も食べれるなら嬉しい。少し頭の中で妄想しているとネイシャの話が進みだす。
「そこで大恩ある森の精霊様にお願いするのは大変厚かましいのですが、お力を借りたく思いてまして」
「というと?」
「この城塞都市、いえこれからは新生都市国家エマリーズとなるのですが、森の精霊様にこの都市の中心部を棲家にして頂けないかと思いまして」
話によるとかなりの土地をこちらに譲ってくれるそうだ。魔物との事もあるだろうが大盤振る舞いで、普通に1000人くらい住める場所をくれるとは。
(緑が足りないよね)
そうなのだ、僕らにとって緑がないと落ち着かないのだ。
「外に出ているエルフが帰ってきても約1500人にしかなりません。この都市では、以前は7000人程住んでいましたので大分空きが出てしまいます。そこで森の精霊様には住んで頂き、恵みを分けて頂けないかと思いまして」
東西北にエルフ族が住み、中心部は僕ら、南は今後の人族移住者用の住処や宿。
それに今ある傭兵ギルドや冒険者ギルドが南側にある。
また、中心部の建物は如何様にしてもいるみたいだ。
「うん、それで大丈夫。こっちとしても緑が無いと落ちつかないんだよね」
「ありがとうございます!では早速中心部にご案内させて頂きます」
有無も言わせずに、ネイシャは席を立ちどうぞどうぞと言わんばかりに急かす。よっぽど気が変わってやっぱり無しと言われるのを恐れたのだろうか?
そのまま宿から約30分程中心部に向けて歩いていくと噴水のある綺麗な広場が見えてくる。どうやらここが中心部だそうだ。個人的に水があるのは高評価だ。是非湖は無理にしても池とか作りたい。
(緑をいっぱい増やそう)
ポポもやる気満々みたいで良かった。
「こちらが中心部になります。いかがでしょうか?」
「うん、水も有るみたいだし結構良さそうだ。早速シンボルとなる木から生やしていこう」
均等に敷き詰めてある石畳みを力任せに取り外し、両手を地面に付ける。イメージは大楠の木だ。ただ大きくなるように思い浮かべる。この国が大きく繁栄していくように。
(格も上がってるから、がんばる)
ポポからのサポートを受け、いつもより集中しおなかに力をいれて踏ん張る。すると地震のような揺れが起き始め、敷き詰めてあった石畳みが空へ吹き飛んでいく。その下から大きすぎる木が飛び出しどんどん天を目指して伸び上がるのであった。
5分ほどだろうか、漸く立ちあがり木を見てみると横幅が約40m程で高さは分からないが200m位はありそうだ。これならきっといいシンボルになってくれそうだ。
(世界樹よりはまだまだだけど、なかなか大きくなったね)
ポポも頑張ってくれて助かった。
しかし、先程まで一緒にいたネイシャとララシャは腰を抜かし目を回しているのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます