第9話 眼は口ほどに物を言う

 ドレークが城壁を飛び越えて行った後は、ヤドリギ達が魔物を回収して来たのを栄養にし、幸福感に包まれていた。

 全部回収し終えて手持無沙汰になると、戦闘が気になってしまう。少しだけ城壁に登って状況を確認してみるため、長い蔦を城壁に引っ掛けて登ろうとした時ポポから提案があった。


 (木を伸ばして行ってそれに乗れば?)


 「そんな事出来るんだ?今まで身体から生やしてばっかりだったから」

 

 やり方のイメージをレクチャーしてもらい、足に集中し生やしたい木を思い浮かべて伸びろと意識する。

 すると足下からズズズとヤシの木が生え、凄い勢いで成長しそのままヤシの木に捕まりながら城壁上まで伸ばすことが出来た。


 登った先には辺り一面残念ながら死体だらけであった。前世の生まれからヤドリギを人族に使用するのは憚られた。ただ悪人や敵対者には割り切って使おうとは思う。


 そんな周りが死体だらけの中に、1人虫の息でかろうじて生きている人族の女性が、血溜まりの中でぐったりとしていた。

 見つけてしまったのだから、仕方ない。

 このまま放っておいて死なすのも目覚めが悪いと思い、竜眼を取り出し皮を剥いて食べさせる。

 彼女に竜眼を食べさせた一寸後、ゆっくりながらも上半身を起こしこちらを凝視して一言。

 

 「森の精霊様ーーーー!?」


 確かに現在の姿は体中草だらけな訳で、魔物や、蛮族と言われないで良かった。

 ただ、正直なんて言おうか思案していると、彼女は周りを見渡しヒィィと声を上げた。


 「みんな、、、死んでます?」

 

 「君も死にかけてたよ」


 そう発言すると彼女は土下座して動かなくなってしまった。

 しかし、人族とは会話が出来ないかもと思っていたが普通に彼女とは会話が出来ている。まあ、あくまでも予想だったし良かった。


 (竜眼に何か特殊な効果があるのかも、竜の言葉がわかるとか)


 確かに、竜眼は世界樹でさえも生み出せない果物でフォレストドラゴンの固有スキルと言える。何か色々な効果がある可能性は否定できない。これは要検証だな。


 竜眼は取り敢えず置いておき、彼女は土下座から動かなくなってしまったので、少し城壁の上から都市内を観察していると、ドレークが一騎当千の如く活躍しているのがよくわかる。そこから、1時間もしない内に魔物を城塞都市から撤退させる事に成功する。

 勝鬨を上げてはいるが、あまりにも死人が多すぎた。しかも、魔族を完全に撃滅したわけでも無く半分くらいは生きてそうだ。


 そんな風に考えていると、ドレークが音もなく側に仕え報告をしに来てくれた。


 「ただいま戻りました。主命しかと果たしてまいりました」


 そう言うとプクプクに太ったヤドリギも5体渡してくれる。中の栄養元は上位種もたくさん混ざっていた。使い道をあとで考えるために、腰蓑に貼り付けておく。


 「ご苦労様、すごい活躍だったね」

 

 「ありがとうございます。ただ、大した敵もおりませんでした。またそれ以外ではエルフ族と人族に知己を得ました。しかしその中では人族とは言葉が通じずエルフ族とは言葉が通じました」


 どうやらドレークの話しによると人族とは話が通じなかったらしい。先程助けた彼女の方を振り返ってみると、ドレークを見て固まっていた。ドレークも彼女の方をチラッと見るが、すぐさま視線をこちらに戻す。


 「なんとなく見捨てられなくてね、竜眼をあげたんだ」

 

 少し照れ臭くなって、頬をぽりぽり掻きながら、言い訳のように答えてしまった。


 「それはようございました。何か使い道もある事でしょうし、またそれとは別に傭兵団の者がお礼を申し上げたいと申しております」

 

 「傭兵団?普通領主とか軍人のお偉いさんがお礼するんじゃ」


 「領主や幹部の一部は隣町に脱出、街の兵隊もあまり機能しておらず傭兵団が仕切っておりました。またこの城塞都市は少々特殊でエルフが住んでいる自治区もあるそうで、エルフに防衛も任せていたそうです」


 なるほど、つまりエルフは竜魔戦争以後はここに移住してきて一部自治区として暮らしていると。その対価として、エルフの防衛力を当てにしていたと。


 「また街の住人や商人も逃げ出したため、この街は事実上死にかけております。食糧の備蓄も後5日で無くなるそうです」

 

 それは、逃げていった住人や商人が戻って来なかったらかなり不味くなるな。


 (ぺぺなら食糧関係はどうとでもなるけどね)


 確かにフォレストドラゴンの能力を使えばある程度は供給出来るとは思うけど。

 そう話し込んでいると、下から階段を使い城壁に上がってくる人族とエルフ族が見えた。

 1人は男の人で重鎧のフルプレートを着込んだ立派な体格で両手剣を背負っている。もう1人はエルフ族の女性で、片腕が無くなっている。


 2人はこちらを見るとギョッとした顔を揃ってしていた。そりゃ全身を草で覆っていたら、ビックリするはずだ。ドレークはその辺気にせずに連れてきたようだ。


 「初めましてぺぺさん、私はララシャと言います。こちらは傭兵団暁月夜の水平線団長のザルバローレと言います」


 そうララシャさんは言い、団長という人も挨拶をしたがドレークから聞いていたようにやはり上手く言葉が理解出来ない。


 「どうも初めまして、ドレークの主人のぺぺです。どうぞ宜しく」


 「ドレークさんが来てくれて本当に助かりました。ありがとうございます」


 そこからは、この街にはどうしていたのとか。これからどうするのとか色々意見交換が出来た。身分証明やお金なんて全くないから危ないとこもあったけどなんとか乗り切れた。出来たらエルフの事をもっと聞きたいが今は我慢する。


 (腕可哀想だね、治してあげる?)

 

 ポポの言った通りそれは気になるので、聞いてみる。


 「ララシャさんは、腕はどうされます?」


 「治す当てはありませんのでこのままになります、この手では傭兵の仕事はもう出来ませんが」

 

 確かに弓を打つには両手を使わねばならず、それを出来ないなら傭兵を続けるのは難しい。


 「私が治せると言ったらどうします?」


 「そ、それは是非!お金も多くはありませんが出せます」


 急にララシャさんが食いついたから、団長さんがビックリしてしまった。


 「お金は嬉しいですが、協力してもらいたい事が有りまして」


 「協力ですか?」


 少し不安げな様子でララシャさんはつぶやいた。


 「あと良ければこれを団長さんに食べて貰えませんか?」


 そう言い、腰蓑から竜眼を取り出して皮を剥き差し出す。ララシャさんが翻訳して話をすると、恐る恐る団長さんが手に取りジッと見つめ覚悟を決め一口で食べる。


 「な、なんだこれめちゃくちゃ美味い!」


 当たりだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る