第8話 城塞都市カルメン防衛戦(3)
主命を受けたドレークは、風魔法も使いながら軽々と城壁に飛び乗り辺りを見回すと呟いた。
「状況はかなり切迫しているようだ」
魔法の直撃を喰らったのか弓兵や魔法使いが屍になっている。
中には辛うじて生きているものもいるのが、虫の息で助かる見込みは少ない。
1人だけまだマシなエルフ族がいたが、片腕を失っており失血が酷い。座り込んで、荒く息を吐いている。
主人からは人族やエルフには、ヤドリギを使わないようにと厳命されている。
「大丈夫かね?」
俯いていたエルフは恐る恐る顔を見上げ、血の気の引いた顔を強張らせていた。
「言葉は通じているかね?」
こくんと静かに頷く。
どうやら、問題なく話は通じるようだ。だが喉がやられているからか、声が出せ無いのかもしれない。
出来れば助けるという主命、特にエルフ族は人族より優先的に助けるべきだろう。
以前のヤドリギ時代に、主人から竜眼をいくつか頂いた分はずっと保管していた。
それを腰から一つ取り出し、皮を剥きエルフに差しだす。
エルフは何故か、こちらを見たまま一切動こうとしなかった。
なるほど身体が怪我で動け無いと思い、エルフの元に行き、無理やり口を開け竜眼を食べさせた。
するとエルフが怪我していた部分は塞がり、片腕は生えてこない無いものの痛みも大分柔らいだように見えた。
ドレークはその様子を見て、命に別状はないとみて城壁から下に飛び降り、人と魔物の戦いの観察を続けた。
だが、その先は絶望としか言い表せ無い戦況が窺えた。
城門から入られて、そのままドンドン先に進行されており後ろからは魔物の魔法が兵士を吹き飛ばす。
後ろに控える魔法使いを倒さねば勝機は無く、だがそんな戦力は人族にはない。
そんな中でも、両手剣を操る人族はまだ心が折れて無いのか、下位種のオークを薙ぎ倒している。彼以外は防ぐので精一杯なようだ。このまま見ていても仕方ないので、彼の近くにいた下位種を斬り伏せ近づいて声をかける。
「助太刀は必要かね?」
◇
暁月夜の水平線の団長のザルバローレは、城門の崩れた先から雪崩れ込んでいる下位種と相対していた。まだ、開戦してから数刻もしていない内に城門は破壊され現在に至る。
都市内で戦え無い住民や商人は、隣町にすでに避難しており領主とエルフの女王も既に脱出した。残っているのは傭兵団と街の兵隊のみになる。
城門から徐々に押されており、正直いつ戦線が崩壊するかも判らない。現に他のC級やB級の団も大半がやられているだろうし、うちの団も半分近くやられた。
とても割に合う仕事ではないが、契約を破る事は出来ない。何よりララシャとの約束もある。
しかし、城壁上で戦っているララシャから反応がないから心配だが、他を心配する余裕がないのが事実だ。
下位種のゴブリンは殆ど死んだのか見かけず、今はオークが列を成して襲いかかってくる。ゴブリンとは違うズンズンとした足音が響き渡る。ましてや兵隊は守るのが精一杯で、魔法も飛んできて状況は最悪だ。
「オラァーーー!!!」
愛用の両手剣で横っ腹から振り払いオークを3匹まとめて吹き飛ばすがすぐに後列のオークが入れ替わり加わる。
「ハアハア、ライク生きてるか?」
「ゼェゼェ、もう無理っすよ」
レザー主体のライクは動きが速い代わりに防御が少ない為、所々出血している。
何より戦闘が続いてから休むことも出来ない為疲労がたまり、身体の動きが鈍くなる。
ザルバローレは土魔法で身体を強化し、まだ傷らしい傷はない。しかし、ライクは風魔法で移動速度を上げて攻撃を避けていたものの魔力も底をつき、何発か喰らってしまい出血も見受けられた。
ライクとの会話で少し気がそれた事でオークが距離をつめ斧を振り上げようとした瞬間、突風が吹いたかと思うといきなりオークがまとめて10体程が倒れ出した。
そこには見慣れないダークグリーン色の全身鎧を着込んだ巨体の騎士が剣を下ろし、こちらを振り向き視線が交差した。
周りの空気が凍りついたのが分かる、敵も味方も動きを止めている。それ程その騎士が異才を放っていたからだ。
そして俺の方を向いたまま理解出来ない言語を何か喋り出すが、聞いたことのない言語のため何を言ってるのか理解出来なかった。
どう反応していいか戸惑っていると、上の方からララシャの声が響き渡った。
「団長!助けはいるかですって!」
それを聞いて、巨体の騎士に頼むと一言言い頭を下げる。
巨体の騎士は了承したのか、頷いて返す。
そのままオーク達に振り向き手をかざす、何か唱えると大量の水がオーク達を押し流した。
皆が呆然と見ていると、オーク達を飛び越えて奥に進み出した。
あまりの光景に見惚れていたが、ハッと気を取り直し号令をかける。
「お前ら!今がチャンスだ押し返すぞ!」
「「おおー!!」」
魔物も大量の水に飲まれ浮き足だっているのか、隊列に乱れが見られる。その隙を見逃さないように交戦をしかけ戦線を押し上げていく。
そして城壁上にいたララシャも合流を果たすが片腕がない。
「おいおい、腕はどうした!?」
「魔法にやられて失い、死にかけましたがさっきの騎士に助けられました」
その話を聞きやはり悪い奴では無さそうだが、では何処からやって来た?あんな強いやつは傭兵団では見たことがない。
「まあ今はいい、それよりも反攻に出るから指揮を頼む」
「分かりました。ご武運を」
そして、兵隊と傭兵をかき集めて攻勢に出る。奥では先程の騎士が上位種を撹乱しながら、少しずつ打ち取っていく。魔物がわんさかいる中を行くなんて化け物だ。普通なら身動きが取れずに袋叩きにされて終わりなのだが。
こちらも見ているだけではいられない。ザルバローレは土魔法の強化を行い吶喊を上げる。元々両手剣を使うこともあり、集団戦よりも個人戦の方が得意なのだ。
「ハアアアア!」
後方が気になりだした下位種に、両手剣で吹き飛ばしていく。巨体の騎士が後方で撹乱しながら上位種を押さえているおかけで、下位種に集中出来る今しかない。
さっきまでとは打って変わり、戦線が大幅に上がりザルバローレが暴れ出すと、オーク達は次々と潰走し始める。元々、魔物の魔法が無ければオークら下位種は問題ではないのだ。
城門外へと次々と魔物は逃げ出していく、一度崩れると立ち直すことは難しい。そして城塞都市内には1匹も居なくなり、代わりに巨体の騎士が威風堂々と佇んでいた。
それから、外に逃げ出した魔物の姿が見えなくなってから勝鬨を上げるのだった。
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