第7話 城塞都市カルメン防衛戦(2)

 城塞都市へ向けて周りの草原に同化しながら、中腰状態でコソコソ歩いていると、城壁部分が明確に見えて来た。

 ここより500m程先には、魔物が城門周りをとり囲んでいる。

 中にはゴブリンや下位種が矢を受けたのかバタバタと何十体も倒れ伏していた。

 

 (大きいのがいるね)


 「あの魔物は大きさ的に上位種かな?」


 城門手前付近に、3mはありそうな魔物が魔法を受けたのか丸まったまま動かない。


 「まずはまだ近い下位種をヤドリギで吸収、その次は上位種を狙ってみようか」


 (それが良い)


 すぐさまヤドリギを呼び出そうとしたら、腰蓑にひっついていた食いしん坊なヤドリギが、ピョンと飛び降り大きな魔物目掛けてちょこちょこ歩いて行ってしまった。

 まさか勝手に行くとは思わず呆然としていると、ポポから声をかけられる。


 (あの子は出来る子だから大丈夫。それより他のヤドリギを呼び出そ)


 もしかしたら、ポポとの会話を理解して行動してくれたのかもしれない。

 先に行ったヤドリギは一旦置いておいて、新しいヤドリギを両手一杯に呼び出す。

 

 ポポ曰く、ヤドリギが沢山栄養を回収すればそこから新たな擬似生命体、つまり命令を聞く木人や思い浮かべた馬車に家等様々な事に転換出来るらしい。

 そしてもちろん自分の強化のために使うのも良いだろう。


 だがヤドリギは、死体か瀕死状態の敵からしか、栄養を吸えないのでこういった戦場では、ボーナスと言える。


 そしてあくまで優先順位は安全第一、その次にヤドリギにて栄養吸収、最後に人族への加勢だ。


 少しずつ前に進むと死の濃厚な香りが強く感じられるようになる。ここからは匍匐前進でゆっくりと進みます魔物に悟られないように前進していく。

 その間にも魔物の攻撃は熾烈を増し、激しい火花が散り上位種の魔物は城壁や城門に魔法を叩き込んでいる様子が垣間見える。

 城塞都市側からはあまり反撃が見えないので大分不味い状況なのかもしれない。


 ゆっくりゆっくりとそのまま進んでいくと、どうやら魔物は攻撃に夢中で後ろはお留守のようだ。

 

 「行っておいで」


 呼び出した10体のヤドリギを、死体に向かわせる。

 このまま、ヤドリギが帰って来るのを待っていると城門の方からけたたましい音が鳴り響いた。

 その瞬間、前が詰まっていた魔物達が中に雪崩れ込んでいく。

 

 「上位魔物が強すぎる」


 思わぬ独り言がつい出てしまう。それ程までに魔法というのは規格外で、戦況を一変させてしまう。このままでは間違いなく、この町は陥落してしまうだろう。

 

 (帰って来た)


 ポポから言われ目線を下に向けると、先程送り出したヤドリギ10体のうちの半分が帰ってきた。

 

 (残りはまだ漁ってるみたい)


 その言葉を聞き安心し、先程よりふっくらしたヤドリギ達を取り込んでいく。

 すると強い幸福感と高揚感が同時に襲ってくる。まるで温泉に浸かりながら、美味しい食事に舌鼓を打っているような錯覚。


 (格が少し上がった)


 所謂レベルアップのようなものだろうか?少しでも強くなっていれば良いのだけど。

 そう思案しながら、戦場から外していた視線を戻すと3m程のあった魔物が居なくなっているではないか。


 「食いしん坊がやってくれたかな?」


 (間違い無いね)


 しかし、元人間として出来る事なら助けに行きたいが、その気持ちとは裏腹にさらに魔物が城門内へと雪崩れ込んでいくのがみえてしまう。

 その分だけゆっくりと匍匐前進で進んでいるともう城門まで100m無い位まで辿り着く。

 ここまで来ると殆ど城門前には魔物は居なくなっていた、代わりにあり得ないくらい大きなヤドリギが、ノシノシ歩いて来る。


 「なんでそんなに大きくなってるんだ」


 (下位種202体、上位種4体吸って来たって言ってる)


 空いた口が塞がらないとはこの事だろうか。他のヤドリギは、2匹も吸えば満足して帰って来るのにこの子は食いしん坊にも程がある。というか、よく魔物にばれなかったな。


 (魔物の匂いを出してたらしい。後、役に立ちたかったって言ってる)


 かなり特殊なヤドリギなのかと思うが、その言葉を聞いて嬉しく思い、このまま側で役に立ってもらう為に吸収はせずに、新しい身体になってもらおう。


 でっぷり太ったヤドリギの側まで行き、手のひらをヤドリギの身体に触れる。


 最初に浮かんだイメージは大柄で寡黙な騎士だ。

 そして何より大事なのは鎧、今回は緑に少し黒が混ざったダークグリーンのフリューテッドアーマーを思い浮かべる。次にマントにロングソード、最後に竜と木の紋章を施したシールド。


 (上位魔物の持ってた魔法は、水、火、風。火は属性上使えないから耐性に回す、体力はやや下がるけど知能と会話出来るようにする)


 どうやら、ポポも色々サポートに回ってくれているみたいだ。その言葉を聞きながら、手のひらに意識を集中していく。


 そしてお腹に力を入れ、新しく作り出す。


 「顕在せよ!暗緑の騎士ドレーク!」


 その瞬間、ヤドリギに変化が現れる。球根部が徐々に肥大化していき、約3mまで大きくなった所にそこからダークグリーン色の大きな花が咲き、瞬く間にすぐに枯れると球根部から斬り込みを入れてドレークが中から出て来た。


 背格好はかなり大きく2mはあるだろうか、また歴戦の風格が漂い、とてつもない威圧感が見受けられる。鎧姿もイメージしていたのと全く同じだ、但し鉄のように見えるが木製ではある。

 そんな大騎士を見ていると頭の中に、スッと情報が流れ込んでくる。


暗緑の騎士ドレーク Lv52


力 150

防 200

早 100

賢 120


スキル:剣術Lv11 盾術LV13 水魔法Lv6 風魔法Lv3 火耐性Lv2 水耐性Lv5


称号:フォレストドラゴンの眷属


 

 (結構強そうだね)


 ポポの言葉にハッと我に返る。正直思っていた以上に凄いとしか良いようがない。

 あのでっぷりしたブサカワいいヤドリギからこんな凄いのが生まれてしまうなんて。そうじっと見ているとドレークが膝を突きながら挨拶を述べる。


 「我が主人よ、お会い出来て光栄の極みでございます。暗緑のドレーク只今参上致しました」


 人が好きそうな好々爺とした声色で、思っていたよりも、全然寡黙には見えない。忠誠度が青天井なのは態度から見て分かるが。

 

 「また、世界樹で有らせられるポポ様にも御拝謁賜り、恐悦至極でございます」


 どうやら、ポポも認識出来ているみたいでしっかりと挨拶してくれている。


 (これから、宜しくね。ドレーク)


 「御意に」


 さて、ここからが問題だ。

 魔物の大群は、少しは数を減らしたもののそのまま城門内に突入して激戦を繰り広げており、ここまで音が鳴り響いている。

 まだ城門前には、回収出来ていないヤドリギもいるため回収してから、城壁に登って偵察出来れば良いんだけど。


 (ドレークに偵察してもらう?)


 「確かに、偵察がてらもし人族が力を貸して欲しいというなら貸してあげれないかな?」


 「それが主命であれば。ですが、お側から離れてしまってはいざという時にお守りする事が出来ませぬ」


 ドレークは納得しかね無いと言わんばかりである。


 (大丈夫、戦闘は避けるから。それにドレークがヤドリギで回収出来たらさらに戦力が増えるから)


 ドレークはいくらばかしか思案した後、短く御意と言って新しく生み出したヤドリギをマントのなかに貼り付けて走り出した。


 そしてすぐに城壁まで辿り着くと、風魔法を使ったのか高さ8mの高さを一息に飛び越えて中に入っていった。

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