第6話 城塞都市カルメン防衛戦(1)

 朝の日差しが、顔を照りつける。


 昔なら眩しいと顔を顰めてしまうが、今では日差しがこんなにも嬉しく感じてしまうなんて夢にも思わなかった。

 昨日の出来事を思い返すと、夢の様な出来事に思えてしまうのは仕方ない事だろう。


 (おはよう)


 まだまだ、夢見心地な気持ちだったがポポに声をかけられて、少しずつ覚醒しだす。


 「おはよう、昨日は急に寝てごめんね。思ってたより疲れていたみたいだ」


 (大丈夫、魔物の大群も南下していって途中から感知出来なくなった)


 あれからポポは、魔物の大群が感知外になるまでずっと見てくれていたらしい。

 その後は、敵襲も無く安全だったとの事だけどポポは睡眠はほとんどいらないそうだ。


 ポポに感謝をしつつ、もう少し自家製ハンモックで寝ていたいがそうはいかない。

 魔物の大群の行き先がそのまま南下していったのであれば、恐らくその先には何かがあるはず。


 腹ごしらえのために、朝からバナナを一房生み出してパクパクと食べる。濃厚な甘さが脳に栄養を染み渡らせてゆく。

 やはり時代は果物屋さんか、デザート屋を開業するのも悪くないなとほくそ笑んでいると、食いしん坊のヤドリギがいつの間にかやってきて一房の大半を食べ切ってしまった。

 

 朝からバナナを食べた後は、ゆっくりとはしていられずにすぐに魔物の大群の跡を追いかける。

 日光浴ができる間は、大分体力に余裕が出きるため駆け足で走る。


 1時間程走り回っただろうか、全然息切れもなくむしろ体力の消費や疲労が全く感じられない。さらに速度を上げようかと思っていると、ポポから声がかかった。


 (もうすぐ、竜魔の森を抜ける)


 鬱蒼とした森がずっと続いていたせいか、ポポの言葉を聞くと喜びと何故か寂しさが入り混じった感情が生まれた。

 この世に生まれ落ちて、人型だけど歴としたフォレストドラゴンなのだ。

 故郷が恋しくなるのも仕方が無いのかも知れない。


 そう気持ちの整理を付けていると、不意に視界が開けるその先には見渡す限りの大草原が広がっていた。


 (ようやく追いついたね)


 ポポが言ったように、少し目を凝らしてみると10km程は離れているのだろうか、城塞がある街に魔物の大群がウジャウジャと蔓延っている。

 それと、微かに煙が立ち上っているのがかろうじて見受けれた。


 (助けに行く?)


 「助けれるのなら、行きたいとこだね。魔物を倒して吸収、恩も売れたなら一石二鳥だ」


 ただ言うは易く行うは難し。


 まともに後ろから不意打ちをしても、物量に押されて負けてしまう。さらに気をつけて行かないと、人間がいるとなると敵対されてしまう可能性もある。

 簡単な話で余りにも風貌が蛮族スタイルだからだ。

 しかし、ポポ曰くエルフなら友好関係を持てると言っているから、そこに賭けるしかない。

 それにもし戦いになった場合、危ない時用に秘策も何個か用意している。


 「出来るだけ気づかれない様に、草原を模した迷彩服のような物も着てみよう」


 周りの景色に同調できる様に、黄緑色に近い草原を身体中に出し、中腰で出来るだけ早く歩くのだった。







 ぺぺ達が竜魔の森を抜ける前に遡る。


 暁月夜の水平線の団長であるザルバローレは、城塞都市カルメンの城壁の上で防衛任務に当たっていた。

 まだ夜が明けてから、数刻も経っておらず顔に当たる風はまだ寒さを感じる。


 ここから見渡すと竜魔の森が、如何に広大か嫌でも知る事になる。

 そこから魔物の大群が、こちらにやって来るのだから、視線は竜魔の森から外す事は出来ない。


 そうして、不動の構えで経っていると近くの階段から、急足でコツコツと軍靴の音が聞こえてきた。


 「新しい情報が届きました」


 「悪い知らせか?」


 視線は竜魔の森から動かさずに、ララシャから嫌な報告を聞く。


 「魔物の大群が進行中に他の群れと合流、間も無く森を抜けます」


 「はあ」


 普段は軽口を叩く男がため息をつくのは珍しい。

 それ程にまで状況は、刻一刻と悪化を辿っているのが分かる。


 「聞きたくは無いが、数はどうなっている?」


 「上位は確認出来るだけでおよそ110体、下位1000前後だそうです」


 「なんだ、竜魔戦争のスタンピードよりかは全然楽勝だな」


 なんとか、弱音を見せない様に軽口を叩いてみるが、明らかに楽勝所ではない。

 下手をすれば城塞都市カルメンの陥落が見えてくる数字だ。


 「あの時は、私達が魔法を使えましたからすいません」


 3年前のスタンピードの原因は、竜魔戦争にある。

 ここ城塞都市カルメンには、上位種は1000を越え下位種ですら数万の数が押し寄せた。

 東隣にあるメイザス王国にもスタンピードが押し寄せ、王都まで進行されたと聞いている。

 

 城塞都市カルメンが無事なのも、間違いなくエルフ達のおかげなのだ。


 「昔のことなんざ今はどうだっていいさ、それより勝てるか?」


 「大勢死にますが、何とかします」


 「いやいや!うちらなら余裕ですって。ね、団長」


 そう気安く声をかけてきたのは団内序列5位のライクと言い、赤く短い髪が特徴的でレザー装備で身を固めた軽戦士。

 片手剣を主に使い、弓に魔法も使えて、性格以外はかなり有能な人族である。

 だが、この暗い雰囲気の中では底抜けた明るさは非常に助かった。


 「まあ俺らは負けた事が無いしな。今回も問題ない、気楽に行くぞ」


 周りに聞こえる様に、大袈裟に言うと周りからは応と反応が返ってくる。

 そのやり取りに、場の雰囲気が軽くなった所で付近一帯が急に騒がしくなる。


 カンッ、カンッ、カンッ。


 「魔物の大群が来たぞー!」


 煩く聞こえる程の警鐘の音と共に、見張りが大声で魔物の大群が見えた事を伝えた。


 街の兵隊は急いで門前に列を成していき、冒険者や傭兵団の魔法や弓を使える者は城壁の上で今か今かと待ち侘びている。


 「意外と来るの遅かったっすね」


 「そのまま来なけりゃ良かったんだがな、ここまで来るのに半刻位か」


 先程までとは違い、周りの団員も大分肩の力が抜けてきたようだ。

 戦いが始まったら、飯を食べる時間などないので今のうちに携帯食を摘む事にする。

 あまり緊張を保ちすぎても疲労が溜まるだけなので団員にも交代で取らせる事にする。

 

 団員全員が食べ終わった頃には、魔物の大群の足音がドシドシと響くように伝わって来た。


 「団長そろそろ良いっすか?」


  そろそろ弓の射程範囲に入りそうになりライクから許可を求められる。腹に力をグッと入れて一息。


 「全員、放てー!」


 城壁の上から、雨霰の如く矢が魔物に向かって降り注ぐ。

 ゴブリンのような下位種は、矢を受け絶命するが後続は死体を踏み潰しながら進む。

 また、上位種であるオーガは矢を受けても全く意に介さないまま城門まで進撃していく。


 「魔法使い、順次放てー!」


 次々と炎や氷に風と言った複数の魔法が、下にいる魔物に襲いかかる。

 先程まで平然としていたオーガも、集中砲火されたため地に伏せ絶命する。


 それでも、まだまだ魔物の進撃は止まらない。しかも上位種がお返しとばかりに、魔法を城壁と城門に撃ち放つ。


 「伏せろー!!」


 その刹那、城壁の一部が魔法により抉り取られ、爆発の影響で辺りに煙が立ち込める。

 爆発の近くにいた何人かは地に伏せ、動く気配が無くなる。


 「手が空いてるやつは、怪我人を運ぶのを手伝え!」


 ザルバローレは必死な思いで指示を出す。

 しかし苦しい戦いは始まったばかりなのに、城門からは不味い事に、けたたましい音が鳴り響いた。

 

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