第5話 魔物の大群(改訂)

 「魔物の大群!?どの位の数か分かる?」


 初戦闘を無事に終えた後に、まさかの熊に遭遇してしまうがなんとか木に登りやりすごす。しかし、一息つく間もなくまさかの驚きの発言がポポから聞かされる。

 もしこれが10体程の数であれば、先ほどのゴブリンクラスならやりようがある。そう思える自信を持つ事が先ほどの戦闘で出来た。


 (正確な数はわからないけど、数百匹はいそう)


 「数百匹!?」


 その言葉に今すぐに逃げ出したい気持ちに駆られる。戦いはやはり数での勝敗が大きいし、今は特別に強いスキル的なものもない訳で。


 (どうやら南下しているみたい。南下先に何かあるのかも)


 魔物群れ、それもかなりの大群が向かっているとしたら、人間の村か街か。

 もし人間の街があるのだとしたら、行ってみたい気持ちはあるが、言語の問題や服装がある。下手をすれば魔物に間違えられないか心配なのだが…。


 ──だがそれでも、気になってしまった。


 「離れた所からついていって、偵察するのはどうだろ?」


 ポポは、木や植物のある所なら異物として魔物等を認識できるそうだ。だから、まず見つかる可能性はかなり低いとみた。それに大群なら気配もわかりやすいだろう。


 (問題ない)


 自信たっぷりの返事を貰い、ゆっくりと竜魔の森を進んで行く。


 鬱蒼とした森が生い茂り、ここからでは魔物の群れを視認が出来ない。そのためポポを頼りに、つかずはなれずで体感3時間ほど歩いただろうか。


 (日が暮れてきた)


 ポポは不満気に呟いた。


 元々鬱蒼とした森のせいで、少し暗かったのだけどさらに闇が深くなってきた。

 どうやら、植物と同じくこの身体でも日光浴で少しずつ体力回復や栄養補給が出来るらしく、サバイバルには是非とも欲しい能力である。

 またその恩恵のおかげで今まで歩き疲れも無かったのだが、これからはそうはいかないらしい。

 ずっと大群の観察を任せていたポポを労い、あまり夜に移動するのも危険であるためこの辺で野宿して朝を待とうかと思索する。ポポは言わないが、少し疲れている様に感じたからだ。


 「あまり夜に移動するのも、大変だしここらへんで野宿しようか?」


 (でも魔物の大群移動しちゃうよ?)


 「大丈夫、また明日早く起きてから急げば良いさ」


 魔物の大群の歩く速度は遅いため、追いつけると思う、また魔物もどこかで睡眠を取るだろうと推察する。


 ポポは少し不満気にしていたが、なんと承諾してくれた。


 寝る前に何か食事を取ってから寝ようと思い、何か良い作物がないか考えてみる。

 本当は火を起こして温かいものを食べたいのだが、さすがにリスクが大き過ぎる。


 という事で今回は生でも食べれる美味しいトマトを思い浮かべる。ニョキニョキと、手首から枝が生えご立派なトマトの実を複数つけた。


 (これがトマト?)


 ポポはこちらの意識をある程度読み取れているのか、初めてみる野菜をトマトと認識できている様だ。


 「好きな野菜のうち、10番以内に入る位トマトは好きなんだよね」


 そう言いながら、トマトを引きちぎり齧りつく。まずは仄かな酸味が口を広がり、その後に優しい甘さが口いっぱいに広がる。適度な酸味と甘さのコラボレーションが絶妙だ。

 パクパク食べていると、腰蓑に引っ付いていたヤドリギがいつの間にか、トマトをむしゃむしゃと美味しそうに食べていた。


 トマトを美味しく食べた後は、寝る準備をするがさすがに地面で寝るには不用心なので大きめの木に上り、そこで長めの蔓とクッション性のある大きな葉を呼び出し簡易ハンモックを作成した。

 そして掛け布団ならぬ、大きな葉を身体に被せる。

 意外と寝心地も良く、暖かさもあるためゆっくりしていると、うつらうつらし始め自分でも思っていたより精神的に疲れていたのかすぐに意識を手放した。

 



◇◇◇




 夜の帳が下りる頃、ラスマータ王国辺境にある城塞都市カルメンでは、篝火が焚かれ緊迫した雰囲気が辺りを包み込んでいた。


「上位種およそ60体、下位種およそ400体。今も下位種の数は膨れ上がっています」


 傭兵団、暁月夜の水平線に所属するエルフ族のララシャは緊迫した様子で団長に報告していた。


「上位種が60体もか?こりゃ不味いな」


 団長と呼ばれている男は、年齢は30前後に見え筋骨隆々な出立ちでフルプレートを着込み、頭は金髪で短く刈り上げられ両手剣であるグレートソードを背負っておいた。その立ち姿は正に百戦錬磨を窺い知ることが出来た。


 この者、名をザルバローレと言い、A級指定の暁月夜の水平線を率いる傭兵団の長になる。


 しかし、ララシャからあまり聞きたく無い報告を聞き苦虫を噛み潰したような顔になってしまう。上位種は、下位種とはかなり強さが分かれる。その明確な差が、魔法の使用だ。


 人族は約3000人に1人が魔法を授かると言われており、ただし戦闘に使えるものもあれば使えないものもある。

 そして現状知り得てる上位種の恐ろしいところは、使用する魔法はすべて戦闘用だという事だ。


 「全く、竜魔戦争から流れが変わったなあ。そろそろこの国から逃げるか?」


 ニヤニヤと意地悪そうな顔を浮かべ、ララシャに問いかける。


 「では、私は退団という事で。今までお世話になりました」


 「馬鹿!冗談だよ!ったく最初にそういう契約だったじゃねぇか」


 竜魔戦争時に魔物のスタンピードが起きてしまうが運良くララシャに助けられてから、なんとかお願いして傭兵団に入って貰ったのだ。

 誘われた時は、魔法が使えないからと断ったにもかかわらず。そしてララシャも団長の軽口を理解しているのか、話を次に進める。


 「仮に、このまま下位種が増えてもスタンピードクラスには、ほぼなり得ないかと。落ち着いて対処すれば被害は出ますが、十分対処可能です」


 「他の傭兵団と街の兵隊全部入れてだろ?他の傭兵団はどうなってる?」


 街の兵隊は国に仕えているわけだから、全員出てくるから問題はない。この城塞都市カルメンは魔物との最前線だから、普通の都市より兵隊の質も数も良い。


 …問題は金で動く傭兵だ。

 魔法使いのいる傭兵団や強い所は、契約金がかなりかかる。この緊急時には傭兵組合に国から、直接依頼がかかる。いつもより、報酬は上がり稼ぎ時になるか、はたまた死んで無くなるかどっちかだが。


 「冥夜めいやの門番、海割のハザク、玲瓏れいろうの黄昏。強い所は今上げた位です」


 「B級か、悪くないな。A級の炎天の流星と水光の導きはどうした?」


 今上げた2つの傭兵団は、ラスマータ王国でもかなり名の知られている傭兵団で、A級指定されている。その傭兵団が最初に上がって来なかったと言う事は、嫌な予感しかしないが素直に耳を傾ける。


 「王都に駆り出されています」


 聞きたくなかった言葉を聞いてしまい、思わずは天を仰いでしまう。

 王都に駆り出されたって事は、何か不味い事が起きてる可能性がある。だがしかし、この状況でA級2つが欠けるのはかなり痛手になる。今度会ったら愚痴の一つや二つは言ってやろうと心の中で思うのであった。


「それで報酬は良いんだろうな?」


「ラスマータ金貨450枚で契約してきました。内容はもちろん都市の防衛、期限は魔物の撤退までです」


 先程まで苦虫を噛み潰していた顔は何処へいったのか、話を聞いて機嫌も良くなりホクホク顔だ。

 それ程に傭兵と金との関係は、切っても切り離せない。


 「契約内容はそれでいい、後は団員に緊急招集を頼む」

 

「既に手配済みです」


 さも当然と言い放つララシャを、頼もしく感じお返しとばかりにほくそ笑みながら軽い口調で答える。


「そんじゃ稼ぎに行くとしますか」


 

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