第4話 初戦闘(改訂)

 「安心感が凄い」


 自分の体を隅々まで見渡すと、生まれたばかりの姿なために急いで腰蓑を作成し装着した感想が出てしまった。


 やはり大事な部分であるので安心感が違う。これでようやく文明レベルが原始人並みになった。

 これからもっと発展していき、まともな服が着たい所ではある。


「そういえば、ポポが会った事のあるエルフはどういう服を着ていたんだろう?」


 よくあるエルフの服は、布だったり動物の革、あまり金属類を使わなさそうなイメージがある。


(あまり覚えてないけど主に着ていたのは布かな、動物の革も着ていたかも)


 どうやら、イメージ通りらしい。そうなると普通の人も、程変わらないはず。このまま腰蓑の出立ちで出会ってしまうと、蛮族認定されてしまう。

 それに、この世界では言葉が通じないのではないかと不安もある。少し考え事をしながら歩いていると、最低限の防具があるのに武器がない事に気付く。

 しかし、手に呼び出せるのは木位しかない訳で、扱いやすい50cmの原木を呼び出す。本当は木刀が呼び出せれば良いのだけど、どうやら無加工の木や植物しか無理みたいだ。


 新しい棍棒を何回か試し振りをしていると、手に馴染むようになってきた。少し振るのが楽しくなってきて、つい探索が疎かになっていた所に、ポポが声をかけてきた。


(何かいる)


 ポポの声に反応して、ふと視線を巡らせる。だが、目線の先には木々が生えているだけだが。


(あそこの木の裏に2体いる)


 ポポの言葉にドクンドクンと胸が早鐘を打つ。初めての敵対種族かもしれないと思うと、緊張が全身を巡り呼吸も息苦しく感じる。


(大丈夫、弱いから)


 その言葉に少し気が楽になり、フーっと深呼吸をし、一息つく。ポポが指定した20m先の木の側まで足音を立てずにゆっくりゆっくりと忍足で近づく。そして木の近くまでたどり着いた。


(休憩しているみたい)


 ポポの言葉を信じ、一息に飛び出す。


「ハアッ!」


先手必勝。


 ゴブリンのような魔物2体が、腰掛けていた所をすかさずに、棍棒を力任せにただ振り下ろす。


「ピギャァ!」


 力任せの一撃を頭に食らった魔物は、悲鳴を上げたまま地に伏せた。


 思っていたよりも自分の力が強く、叩きつけた魔物の頭が陥没している。棍棒も意外と頑丈で折れる様子は無い。

 その光景を片割れがギョッと目を見開らき声も出せずに硬直していた。その隙を逃さずに、今度は棍棒を横から側頭部を殴りつけ地面に沈めた。


(だから言ったでしょ)


 ポポは自信ありげにしており、満更でもない様だ。


 思ったより自分の力が強いのはビックリしたが、不意打ちを仕掛けられたのは大きかった。

 初めての経験だった事もあり、少し疲労感を感じる。少し休みたい所だけど、ポポが早速ヤドリギを催促し始める。


(2体いるから、1体は栄養に。もう1体は保存しよう)


 ポポの言葉に相槌を打つと、早速頭に思い浮かべて呼んでみる。


「ヤドリギ」


 すると両手の手のひらから、球根の様な不思議な植物がニョキニョキ生えてくる。その球根には、不気味とも言える顔があった。


(死んでても良いし、無抵抗でも大丈夫)


 ヤドリギは嬉々としてゴブリンの様な死体の首に寄生し、根っこを身体に差し込み栄養を吸い取っていった。

 

 およそ1分後、凄い勢いで吸われたゴブリンはミイラのような皮だけの干からびた状態になった。 

 しかもヤドリギの顔には、自我があるのか物足りない雰囲気を醸し出し、吸い終わると腰蓑に張り付いた。


(一体もらうね)


 ポポは嬉しそうに言うと、すぐに身体の中にヤドリギを回収した。

 心なしか少し高揚感みたいなものに包まれる。所謂いわゆる経験値みたいなものだろうか。ポポから言わせると、まだまだ物足りないらしい。

 さすがに弱い魔物だと、質も量もかなり下がるとの事。ただ、少しずつ強くなっていくにはもう少し強い魔物にも挑戦していかなければならないだろう。


(少し疲れたなら、竜眼出してみる?)


 一見竜眼と言うと真理を見通すドラゴンアイとかに思えるかもしれないが、全く違うらしい。

 どうやら特別なフルーツらしく種が竜の目に似ているからそう名前がついたそうだ。そして効能がとんでもない。

 滋養強壮、体力回復、そして中程度の傷なら治るらしい。おまけに味もとても甘くて美味しいらしい。


 世界樹であるポポの運命を背負いつつも、農家をしたり行商になって売り捌いたりするのも楽しそうだ。そして恩を売りつつ、気の合う仲間を募集する。強ければなおさらよし!


 そんな妄想を膨らませていると、ポポから早くしろと催促が来てしまった。すぐに頭の中でまだ見ぬ竜眼を思い浮かべ言葉を紡ぐ。


「竜眼」


 すると、さくらんぼ位の大きさの実が右腕からニョキニョキと4つ生えてくる。いつ見ても不思議な光景だ。

 これだけで、ご飯を食べていけそうだ。そんなくだらない思いを、片隅に追いやり皮を剥いて食べてみる。


「!?」


(美味しい)


 普段は黙っているポポも、感覚を共有しているのか喜んでいるようだ。しかし、本当に言葉が出ないとはこの事かもしれない。

 実は瑞々しく、まず鼻から感じられる香りはライチのようであり少しメロンのような香りも混じっているようだ。甘さもちょうど良い甘さである。さらに食べると気力が湧くというか漲るというか、これは癖になりそうだ。

 ただ、可食部は種のせいか思ったより少ないのが残念だ。


 (種も食べられるよ)


 なるほど、一般的な種は取り除く事が多いから無意識に捨てようとしていたが、ポポから言われ食べてみるとビックリ。


 「濃厚なチョコの味だ!」


 まさに前世のカカオから作られるチョコレートの様な味わいを感じる。種だけ食べても美味しいし、一緒に食べても絶妙なバランスに仕上がっている。

 思わず夢中で4つの竜眼をペロッと食べてしまい、幸福感に包まれる。

 だがそんな中、腰蓑に張り付いていたヤドリギが物欲しそうにこちらをみているではないか。

 仲間外れは良くないので、竜眼を生み出してあげると手元にやって来て嬉しそうな雰囲気で食べ尽くす。

 

 「ヤドリギって、栄養は根から吸うのに物を食べる時は口から食べるのか」

 

 (ヤドリギは面白い)


 こんな良い思いが出来るなんて異世界生活も悪くないなと考えていると、木の裏側や地面に生えている草のあたりから音が聞こえてくる。


 (魔物だけじゃなく、動物も沢山いる)


 兎や鹿のような動物達がこっちを見てすぐに逃げ出して行く。弱そうな動物もいて安心していたら、ポポから聞きたくない言葉が出てくる。


 (モスベアがやってくる、木に登ろう)


 ポポの言う通り、近くの木にすぐに登ると体長3m位はありそうなクマの様な動物がノシノシと現れる。前世でも熊と言えば人を食い殺すほどの恐ろしい動物であった。

 モスベアは周りを警戒しながら、こちらにやってきて干からびたゴブリンを見つけるとすぐに食べ尽くし、何処かへ行ってしまった。


 ゴブリンを倒して喜んでいたけれど、まだまだ恐ろしい動物がいるのを目の当たりにして油断せずに慎重に行くのを心がける。

 だがそんな束の間、ポポからとんでもない事を聞かされる。


(ちょっと不味い。少し先になるけど魔物の大群がいるのを感じる)


 一難去ってまた一難とはこの事か。先程食べた竜眼の幸福感が、砂のようにサラサラと崩れ落ちていくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る