第2話 生誕
世界樹からもうすぐ孵化すると言われてからは、熱さが無くなる。その代わりに温かさが身体を包みこむ感覚が芽生えた。
(生まれる)
世界樹のその一言で、ピシピシと何かが割れていく。
しかし、ふとおかしく感じる。身体の感覚が隅々まで芽生えていくのだが、どう考えても人間だ。本来であればドラゴンとして生まれなければおかしいと思うのだが。
(ドラゴンのままで生まれると、魔族に感知されやすくなるから作り替えた)
(え!?)
(だから少し熱かった、ごめん)
確かにあのジリジリとした熱さは辛かったけれども、もし身体の作り替えをするのであればもっと違う痛みが生じてもおかしくは無いのではないか。
意外と世界樹は凄いのではないか。そう考えているとズズズと大きな音が聞こえてきた。
(開けた)
真っ暗だった世界に、光が差し込む。
まだ光を見る事に慣れてないこの身体は、目がズキっとするような痛みを感じるが、少しずつ目が慣れてくる。
しかし、どうやら生まれたばかりの赤ん坊では無いようだ。
(卵の中で成長したから大丈夫)
恐る恐る自分の足を確かめながら、ゆっくりと外に出て振り返ると真っ黒な大木が今にも枯れて崩れそうになっていた。
(あなたのお母さん)
(この真っ黒な木が?)
(私とあなたを守るために御神木になった)
色々な事がありすぎて、自分の理解を越えてしまい呆然としていると、母である御神木は、サラサラと消えていく。
まるで役目を果たしたからもう逝くねと言わんばかりに。
(本来フォレストドラゴンは火にとても弱い、けれど御神木になって魔族からの火に2年も耐えた)
その言葉にドクンと心臓が跳ねる。
女は弱し、されど母は強し。その言葉が頭によぎった。
まだ夢見心地の高揚感が一気に冷め、現実に引き戻す。これが最後の別れになるだろうと、頭を下げて母を見送った。
ここまでして貰ったのだから、なんとか世界樹を守っていかなくてはならないのだが、この世界の事を知らなさ過ぎる。
そう思い、まずは自分の身体を見てみる。生まれたばかりにしては、意外と身長が高く160cm位はあるだろうか。
身体のあちこちに、木の皮が張り付いているようだ。また顔の造形は分からないが個人的にドラゴン姿より、人の姿の方が馴染みがあるためこの点で言えば世界樹に寄生されて本当に良かった。
そう思索に
(ペペ)
「え?」
(貴方の名前)
どう考えてもペットです。本当にありがとうございました。
確かに、確かに寄生されてペットのようなものかもしれないが、個人的に相棒とかそっちに期待していたのだが。
それとも世界樹独特のネーミングセンスなのか。
(気に入った?)
「凄く」
ここで、不和を撒き散らす愚かなことはしない、これから二人三脚で異世界を歩んでいくのだから。
しかし、先程自分の口から普通に会話する事が出来たのにはビックリした。この世界では、日本語は通じないと思うが、世界樹とは違和感なく会話というか念話?が出来ている。
(私にも名前つけて)
会話の事を少し考えていると、いきなり名前を付けてと言われてしまった。
しかし付けないなんてのは言語道断。ある意味、自分の半身みたいなものな訳だし適当に付けるのは良くない。
「対になるポポはどう?」
(良い)
世界樹もといポポから、嬉しそうな声が聞こえホッとした。
しかし、一般的にいえばネーミングセンスは限り無くゼロに近い。だが気に入ってくれて良かった。
大事な名付けも終わり少しばかり周りを見渡すと、鬱蒼とした森が広がり2mから10m位の木が立ち並んでいる。また葉の隙間から僅かに日の光が差し込み位で、やや暗く感じる。また木にはあまり見た事もない木の実も沢山なっているようで、自然の豊かさが垣間見える。
(大体は食べれるけど、毒の木の実もある。ぺぺの場合毒は効かないから大丈夫)
ポポはサラッと言うけれど、毒が効かないのはこの世界で生きて行く上では非常に有難い情報だ。
そして周りを確認し終えると、これからの事を考えて行かなければならない。
もし、ここが竜魔の森だと言うなら早く抜けないと危ないのではないだろうか?この現在の状況では強い魔族に襲われたら、一巻の終わりに違いない。
「これからどうしようか?」
自分自身、この世界の事はほとんど未知数。頼りになるのはポポしかいない。
(まずは魔族に対抗出来るようペペの強化と頼れる仲間も欲しい、かなり遠くになるけど北は魔族領で南は人間達が住んでる。だから南に行く方が良い)
これからは魔族との対立は避けては通れないだろう、こちらには世界樹のポポと自称ドラゴンもいる訳で。
それに仲間は多い方が、心強い。
(ペペが強くなれば私も大きくなる、それにフォレストドラゴンは特殊)
寄生しているポポは、フォレストドラゴンの事をよく知っていた。
ドラゴン族の中では最弱だが、それでも種族ヒエラルキーのトップに君臨している訳で。
(まず、ブレスや飛ぶ事は出来ない)
それは結構ショックだ。
(強靭な鱗もない)
それ本当にドラゴン?
話を聞いている限り、自分の理想像のドラゴンから大分かけ離れているようだ。
そこからはやれ火に弱いだの、でも植物を生やす事が出来たり治療も出来たりするらしい。
ポポが寄生しているおかけで、植物関係のスキルはさらに凄い事になっているらしい。
試しに頭の中で、前世にあるリンゴを思い浮かべると腕からニョキニョキと木が生えてリンゴが実る。
丁度小腹が空いていたような気がしたので、齧ってみると溢れ出す果汁、シャキシャキとした適度な歯応えに極め付けはこの甘さで、思わず言葉が飛び出てしまう。
「ジューシー!」
作物を生み出すだけで、充分食べていける。行商人としても、問題なくやっていけるであろう。
これはこの異世界生活にでも、大きなアドバンテージになりえる。
(とっておきは、竜眼とヤドリギ)
リンゴを食べて感動していると、とっておきのもあるらしい。
話を聞いてみるとどうやら竜眼は、スキルではなく植物らしくフォレストドラゴンしか生み出せない。
食べてよし、薬にしても良しとエルフ界隈でも幻の植物らしく、効果は絶大だそうだ。また、ヤドリギに関しては倒した相手に植え付けて自分の力にしたり、吸い出した糧を新しい木の何かに作り変えれたりするとの事。
なかなかどうしてフォレストドラゴンも侮れない。
話を聞いて少し意気揚々としていると、ポポが釘を刺す。
(まだ生まれたばかりだから油断大敵)
そうだ、まだ生まれたばかりの0歳児、さらに現在真っ裸でいる訳で武器も装備もない。
仕方ないので頭の中で、葉や蔓を思い浮かべ最低限の腰蓑を作成した。
「じゃあ、さっきポポから聞いた南の人間領を目指してみる?
(魔族から離れるならまず南下するべき)
その言葉を聞き、まだ見ぬ新天地を目指してポポと一緒に南下して行くのだった。
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