当日




 ホワイトデー当日。




「まずい。まずい。まずい」

「あんた。顔がひどいよ」

「うるさいっ」


 高校の昼休み。

 高校一年生の沙代里さよりは外のベンチに座って、弟の作った桜の絞りクッキーを、ガッガッガッと勢いよく食べ続けていた。

 同級生の茉奈まなは隣に座っている沙代里が持つ箱から、桜の絞りクッキーを一個もらって食べた。

 サクサクで香ばしくて、ほんのりと桜塩漬けの味がして、真ん中の苺のジャムと合わさると、塩気と甘さがちょうどいい塩梅で。


「美味しいじゃん」

「美味しくないっ。まずいの」

「何をそんなに意地を張ってんだか」

「別に張ってないし」

「弟君が先に恋人ができそうで悔しいのかなあ。それとも、可愛い弟君を恋人に取られそうで嫌なのかなあ?」

「正がもらったバレンタインチョコは義理だし。恋人はまだできないし」

「でも、沙代里お姉ちゃんは義理だとは思ってないんですよねえ」

「………とにかくっ。まずいものはまずいの」


(本当に美味しくないなら、そんなに食べられないと思うけど。言わないでおくか。このささくれは当分、取れそうにないしね)


 目を細めた茉奈は、ひょいひょいっと、桜の絞りクッキーを三個取って、一つずつ食べた。


「あ~とってもおいしい~。いいなあ~私もお菓子作り上手な弟がよかった~」

「まずいし」


 沙代里は茉奈に背を向けて、残り一個の桜の絞りクッキーを食べた。


「まずいし」


 空になった桜色の丸い箱を睨んで、沙代里は言ったのであった。











(2024.3.14)



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ホワイトデーとささくれ姉弟 藤泉都理 @fujitori

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