第9話 あまつぶソラへかえる
丸谷は、手紙を読んでいた。
良かったわ。
丈二君、お母様に会ってくれたのね。
丸谷はずっと後悔してきた。
あの頃、私達は子供達が理解できるような
説明をしてこなかったことに。
子供にわざわざ残酷な話を伝える必要など無い。幼い子供には理解できないに決まっている。
確かにそうかも知れない。
けれど、それで良かったのだろうか。
親には親の事情があって、それが残酷な話だったとしても、やはり、伝えておくことは
私達が丁寧にやらなければいけない事だったのではないか。
例えば、親から虐待を受けていたあの子。
大人になって自分の子供をあやめてしまった。
何故、そんな事になったんだろう。
私はニュースが流れる度に後悔の念が募った。
あの時、あの子に話していたら。
違っていたかもしれない。
お母さんもね、自分のお母さんから、ぶたれたり、大きな声で怒られてたんだって。
優しくされた思い出がないって話してたのよ。
だからね、お母さんはね、君にどうやって
優しくしたらいいのか、わからなかったんだね。
お母さんはね、君のお母さんになりたくて
君を産んだんだよ。
お母さんは君が産まれて、幸せだったんだよ。
だけどね、お母さんは泣いたりする君を
どうしていいのか、わからなかったんだ。
お母さんは自分のお母さんにされたみたいにぶったりする事しかできなかったんだよ。
だからって君はぶたれていい訳じゃないのよ。
子供は泣いたり、駄々をこねるのがお仕事なんだからね。
今、君はお母さんと離れて暮らす事になったよね。
寂しいし、もやもやするよね。
なんで、自分だけって思ってるかもしれないね。
お母さんは、お母さんでいるのが怖くなっちゃったんだ。
君と一緒にいたら、君をぶったり、怒鳴ったりしちゃうのが止められないんだ。
君の幸せを願って、離れる事にしたんだよ。
それで、こうして、君はお母さんと離れて暮らす事になったのね。
お母さんは君を捨てた訳じゃない。
それはわかって欲しいんだ。
君はこれから、何のために産まれきたんだろって思う時があるかもしれないんだ。
もし、理由があるとしたらね、
お母さんを幸せにする為に産まれてきたんだよ。
お母さんは離れても、君の事を思うとね、
幸せな気持ちになるよ。
君は大切な大切なお母さんの宝物だからね。
そんな話を子供達に向き合って、話続けたら
大人になって苦しまなくて良かったかも知れない。
丸谷は、手紙を大切に文箱に入れた。
文箱には、たくさんの手紙の束が
あった。
「今更、こんな事をして何になるって
想いもあったけれど、、。
この手紙の子供達は、明るいソラに帰ってくれたもの。
私に降ってきたあまつぶたち、ソラへ
かえれ、、。」
了
あまつぶ、ソラヘかえる 菜の花のおしたし @kumi4920
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