第8話 人生を語らず

俺は、悪友に電話をした。


「俺、あの人に会いに行ってくるぜ。」


「そっか。

いーんじゃねぇーの。カッパーちゃん?」


「ショーン コネリーだ!」


「まあ、気をつけて行ってこい。

そいで、すっきりして来い。」


「おう!ありがとうよ。」



俺は新幹線に乗り、電車にのり、タクシーに乗り、あの人がいる施設にようやくたどり着いた。


若い職員さんが

「そうですか?

本当に息子さんがいらしたんですね。

いつも私達に、息子さんの話をされるんですが、ご家族はいらっしゃらないと伺っていましたので、、。

ここに来られた時には、認知症も進んでおられたので、勘違いをされているのだろうと思っていました。

きっと、喜ばれると思いますが、息子さんの事がお判りになるかは、、。」


「そうなんですか。お世話になりましたね。

小さな頃に別れましたし、多分、わからないんじゃないでしょうかね。」

俺は苦笑い。


職場さんの後を歩いていくと、ソファに

ちょこんと座っている人がいた。


この人があの人なのか。

俺はあの人の隣にそっと座った。


「あのう、こんにちは。」


「はい、はい。こんにちは。

あら、新しい職員さんかしら?」

あの人は俺の顔をじっと見ていた。


「あなた、、。

じょ、、う、じ?

丈二なの?

本当なの?」

あの人はそう言うと俺の顔を確かめるように

自分の手でさすった。


「本当だよ、母さん。

丈二だよ。」


「ごめんよ、ごめんよ。

なんにもしてやれなくて、、。」

母さんの片方の瞳から盛り上がって耐えきれなくなった涙がぽとんと落ちる。


終わった事だよ、母さん。

もう、終わった事なんだ。

それでいいじゃねぇか、なぁ、母さん。



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