私たち
川谷パルテノン
四人
ここに一枚の写真がある。いつかの17歳。無敵の季節だった。四人の笑顔が物語っている。思えば遠くに歩いてきた。もう毎日のようにカラオケに行ったり、仲間の恋愛を応援したりする日に私はいない。だけどこの一枚に詰まった思い出は永遠だ。
「佳美〜ノート見してぇ」
「瑞穂、あんたまた宿題やってないの? うち一応進学校だよ 単位制なんだから真面目に授業受けなきゃほんとやばいんだかんね」
「いいから見してぇ」
「おっ二人さん 今日カラオケ行かない?」
「栞菜、あんたも危機感ないよ 一週間後は期末試験 わかってる?」
「佳美は真面目ですねえ せっかく部活ないのにはっちゃけなきゃとはならんかね」
「私はあんたらとはちがうんです」
「うわ! 瑞穂聞いた? こいつウチらとは違うってよ やだやだ」
「いいから見してよ〜」
「それはそれとして 今日も深ちゃん来てないね」
「大丈夫かな?」
「まあサクライにフラれてだいぶ落ち込んでたしね」
「出席足りなくなんないか?」
「みーずーほ! そんなことより大事なことあんでしょ友達ならさ」
「そっか……みんなで深ちゃんち、行ってみる?」
「佳美 あんたどうすんの? ウチらとは違うんだよね」
「……あーもう! わかったわよ! ヤな聞き方やめてよ」
「うし決まり! じゃあ放課後校門前集合ね」
私と佳美と栞菜と深ちゃんは高校で知り合った。お互いぜんぜん違う性格だったのがよかったのか悪かったのかケンカもたくさんしたけれどその分楽しいこともいっぱい共有してきた。誰かにいいことがあればみんなで嬉しがったし誰かが辛い時はみんなが寄り添った。当時、深ちゃんには好きな男の子がいて深ちゃんは悩んでいた。相手はサッカー部のエース、武岡くん。ミスチルのボーカルに声が似てたからみんなからサクライと呼ばれていた。そんなサクライに恋した深ちゃんは私たちの後押しもあって遂に告白までしたのだけれど結果は惨敗だった。その日から深ちゃんは学校に来なくなり私たちはずっと心配していたのだった。
「ピーンポーン」
「口で言うやつがあるかよ」
「相変わらずおっきいね 深ちゃんち」
「まあ深ちゃんだからな」
玄関口に深ちゃんのお母さんが出て私たちを案内してくれた。部屋まで通されるとそこには大きな水槽があって、深ちゃんは水中でぐったりしていた。
「深ちゃん…」
「大丈夫? 深ちゃん」
深ちゃんは一瞬こっちに目を向けて弱々しい笑顔を見せてくれた。見せてくれたように見えた。だけれど一言も言葉が出なかった。サメだから。考えてもみればサクライだって何が起きているのか分からなかったと思う。突然ホオジロザメに呼び出されて目の前でただ居られるだけの時間をプロポーズと解せよは無理があった。私たちならわかってあげられた。なぜなら酸いも甘いも潜り抜けてきた親友だからだ。でもろくすっぽ会話もしてこなかったサクライには伝わらない。私たちが間違っていた。深ちゃんをその気にさせたのは私たちだ。盛り上がって楽しくなって、深ちゃんに幸せになってほしい気持ちが暴走して深ちゃんが人の言葉を理解できても人の言葉を発すまでは出来ないがすっぽ抜けていた。これは謝罪の日でもあった。
「ごめんね、深ちゃん」
いいの。と言っている気がする。
「私たち……ほんとに深ちゃんに幸せになってほしくて!」
わかってる。と聞こえた気がした。
「ここにいるみんな! 深ちゃんのことが大事で大事で大好き!」
あたしも。と泣いていたにちがいない。私たちは水槽に張り付いて仲直りのキス顔を見せた。深ちゃんは優しく三つのブス顔に鼻先をトントンしてくれた。それから三人でUNOとかジェンガとかしているとこを深ちゃんに見てもらったりした。
「深ちゃん、また学校きてね」
「私たち 待ってるから」
「カラオケも行こ!」
深ちゃんはありがとうの代わりに口をでっかく開けた。歯の鋭さを見るにもう大丈夫そうだと思えた。
「久しぶりだしさ 写真撮んない?」
「いいねえ」
「じゃあ 行くよ」
「「「ハイ! ジョーズ!!」」」
懐かしい写真。すごくいい写真。USJに来たみたい。
私たち 川谷パルテノン @pefnk
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます