本編・呪声(ジュショウ)ちゃんから死のメンション


SNSポスト

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「希死念慮」検索した子はヤバいらしい。

渋谷駅の地下で何人も行方不明になってる噂。希死念慮ある子が渋谷駅の一番地下にいくと、呪声(ジュショウ)ちゃんに連れてかれる。

―――


知らないアカウントから、なぜか私にメンションがついて届いたポスト。

初めて聞く渋谷駅の噂で、検索してもほかには見当たらなかった。

どうせただの悪戯。

でも面倒なことが多いJKにとって、ホラー映画程度のストレス解消にはなる。



中途半端な田舎に住む高校生には、子供だけではなかなか来れない渋谷は憧れの地。だから弟つきでも、家族の小旅行で念願の渋谷に来れたのは嬉しい。

お母さんは自分の買い物でさっさと一人でどこかへ行っちゃったし、私のしつけのたまもので弟はだいたい言うことを聞く。渋谷駅の自由行動は有意義になること間違いなしだ。

駅についてまずしたいことは、自分的な肝試し。


「姉ちゃんトイレ行きたい」

「我慢できないの?」

「もう無理」


もう小6なのに弟は本当にガキだ。自分が高校生になってからとくにそう感じるようになった。しかたなくエレベーター横のフロアマップを見ると、この階には男性用トイレがないようだった。


「この階にはあんたのトイレなさそうだよ」

「やばい! じゃあ下の階で探す!」


そういうと弟は走り出して、階段を駆け下りていった。

弟のトイレにつきあわされるのは面倒だけど、少しでも一人の時間ができてラッキーともいえる。

しかももう、ここは渋谷駅の地下だ。


地下鉄の階段を下りると、なんとなく空気が変わった気がした。

渋谷駅地下の噂を思い出して、寒気と好奇心がぞぞぞっと背筋を走った。


我ながら悪趣味だなとは思う。

でも過去の嫌気がさすいろいろなことを思い出すと、身体が動いた。

階段横にエレベーターに乗り込む。

ボタンの一番下の階を押すとエレベーターが動き出した。

突然スマホから警報音が鳴って、心臓が止まりそうになる。


「地震!?」


警報音が鳴りやむと、イヤホンから不快なノイズが響いた。

外音取り込みがおかしくなったのかと思っていると、凍えるような声が届いた。


『違う、私だよ』


脳内に直接語りかけるような女の子の声。

底知れない寒気がして、身動きできなくなる。

エレベーターは勝手に動き出して、下の階に降り始めた。


「ウソでしょ」


『ほら聞こえてる。わたしの声』


SNSのメンションで届いた、呪声(ジュショウ)ちゃんのポストで頭の中がいっぱいになる。

――どうしよう。本当に聞こえてる。


『あなたは私のトモダチだよね』


「……そんなことない」


とにかく否定しないといけない気がして叫んだ。


『だって死にたがってたじゃん』


呪声の笑い声が頭の中に響き渡る。

またスマホから警報音が鳴って心臓が止まりそうになった。


スマホの通知を確認するとSNSが立ち上がった。

ホーム画面に、なぜか自分の過去のポストが次々と表示された。

ありえないことが起きている。

どれも消したはずのポストだった。


『ほら死にたがってる』


脚が震えだした。

どれも過去に病んだ時のポストで、間違いなく自分が書いた言葉だった。


『やっぱりトモダチだね』


「そんなことない!」


エレベーターの開くボタンを連打すると、すぐにエレベーターの扉が開いた。

急いでエレベーターから飛び出すと、知らないフロアをとにかく走った。

階段を探して走りつづけたけど、階段が見つかる前に体力が切れた。

近くのベンチに座りこむ。

かなり走りまわったのに、フロア内で誰にも会っていない。恐怖と不安が身体中に満ちてくる。


スマホが狂ったように通知音が鳴らしはじめて、びくっと震えた。

通知からスマホの画面にSNSが立ち上がった。

恐る恐る覗くと、SNSのホーム画面はさっきとはまるで違っていた。

さらにありえない状況に息を飲んだ。


SNSのタイムラインは、今度はブロックした人達のポストでびっしりと埋まっていた。フォロー欄を確認すると、ブロックしたアカウントが全員復活していて、ほかのアカウントがすべて消えていた。


「ゴミ女に雑魚男しかいない……」


思わずつぶやくと、いつかの怒りとか絶望が蘇った。


『わかる。ホウン等に生きる意味ないよねこの世の中』


また呪声が聞こえてきた。

頭がぼーっとしてくる。

スマホの通知音はなりつづけ、ブロックしたアカウントからの投稿が降り積もる。


死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい


どうしようもなく叫びたくなってまた走りだした。

通路ばかりのフロアに逃げ場はなくて、目に入った別のエレベーターに駆け込む。

ドアが閉まると、エレベーターはまた勝手に下に動き出した。


『やっぱりトモダチだね』



返す言葉が見当たらなくて、耳を抑えてエレベーターでうずくまった。


『まだわからない? じゃあこれはどうかな』


今度はスマホからメッセージの通知音が鳴った。

送り主のアカウントは「呪声」。

メッセージを開くとリンクを踏んで、見知らぬSNSのアカウントが立ち上がった。


見知らぬとアカウントをよく見ると、明らかに親友のアカウントだった。ランちゃんの、私の知らない裏アカだった。

しかもそのアカウントの投稿には、もう一人よく知る人の画像があった。

私の好きな人。好きだけどアクションが起こせなくて、ランちゃんに相談してた人。二人は何の接点もないはずで、意味が解らなかった。

ポストをさかのぼって理解した。

二人が密着して撮った画像のテキストに、答えが書いてあった。

―――

友達の好きな男NTR記念w

バレたら殺されるw

―――


この世のすべてが壊れた気がした。



殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す



『ねえ、苦しいだけでバカみたいじゃない? 楽になりたくない?』


殺したいけど目の前にいないから、ランちゃんのアカウントをブロックした。


『ほら、もうこんなゴミみたいな世界で生きる意味ないじゃん?』



怒りとか恐怖とか絶望とかごちゃごちゃになって頭が真っ白になる。

私をもっと追い込むみたいにスマホの警報音が鳴る。


『わかった寂しいんでしょ。じゃあ弟も連れてきてあげようか?』


また呪声からのメッセージだった。

メッセージ内のリンクを開くと、今度は動画が立ち上がった。

「LIVE」と表示があり、日時が刻まれている。

時計を見ると、リアルタイムの配信であることが解った。


さっきまで自分がいたエレベーターホールに弟が立っていた。

弟の前のエレベーターのドアが開くと、弟が乗り込んだ。


「弟はダメ!」


思わず叫んでいた。

弟のことを考えて、初めてなんとしてでも戻らないといけないと思えた。

エレベーターの開くボタンを連打すると、エレベーターは止まった。

ドアが開いて外に駆け出すと、さっきの階よりも明らかに暗く何もない通路が続いていた。

とてもこのフロアに入る気がしなくてエレベーターホールから動けずにいると、呪声が届いた。


『じゃあ最後に選ばせてあげる』


「最後」という言葉で、心臓をつかまれたような恐怖に襲われる。


『嫌いな人たちにメンションをつけて私のポストを拡散するなら許してあげる』


すぐにSNSの通知音が鳴った。

通知を開くと、呪声の噂のポストだった。


――やっぱり生きなきゃ。


生きたいという気持ちと怒りの力をかりて、できる限るの速さでスマホのテキストを打ち込んだ。ブロックしたはずのアカウントにメンションをつけて、呪声のポストを拡散した。


乗ってきたエレベーターとは違う、隣のエレベーターの扉が開いた。

私は祈る想いで駆け込んで、上の階のボタンを連打した。



ドアが完全に閉まって、エレベーターが動きだした。

すぐに重力の感覚がおかしいことに気づいた。


「下に動いてる……」


階を示すデジタルにはマイナスがついて、物凄い勢いで数字を刻んでいる。


「なんで!」


呪声が聞こえてきた。


『約束通り、弟は見逃してあげる』


私の絶叫はどこにも届かない。

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呪声(ジュショウ)ちゃんから死のメンション KazeHumi @kazeno_humi

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