第9話 DAWN 9

―日本国 某日、某所―


「私の部下からの報告書になります。」


 昼。桜井 美鈴が、女子生徒三、四人に囲まれる。

 彼女の私物である、馬が彫られた箸を鷺宮美里が開けようとした瞬間、桜井美鈴が豹変する。

 しかし、体育教師の眞島雄二が入室した途端、我に返った様子で、元の桜井美鈴に戻る。

 重要な点は、素早くかつ強い力で、彼らの内一人の手を握ったところ。そして、口調が変わるところ。これらを考えると、二重人格と考えましたが、その可能性は低いかもしれません。桜井は、以前からいじめに合っているが、壮絶なものではない。  単に、気の弱い彼女をおもちゃにして遊んでいるだけ。精神的ストレスが、人よりある程度である。また、家庭は複雑ではないことは、弁当の様子からも見受けられるので、一般家庭と考えられる。発症する原因が、今のところ見当たらない。

 以上、私個人が気になった生徒です。


「……なるほど。」

「補足しますと、彼女は、高校生になってから、いじめの対象になっている様子です。それまでは、充実した中学生を送っています。」

 男性は付け加える。

「一般的な二重人格でなければ、我々がコントロールする隙があるのではないかと考えていますが……。」


女性は、暫く黙り込む。


「わかりました……なぜ、豹変してしまうのか。それは、周期的なものなのか。豹変した時の性格、思考など、彼女に関する全ての情報を集めてください。もし、我々がコントロールできる範囲であるならば……。」

「あのAveryを抹殺できる可能性がある。」


男性は、口を開く。

「……、情報を隠すのではなく……?」


「ええ。我々は、あまりにも血の匂いがし過ぎています。スパイは、我々と極力直接的な接触を避けるでしょう。ですが、プロなら一般人に危害を加えることは一切しません。逆に、それが隙です。」


「目には目を……。」


「歯には歯をです。現時点で、情報をもう一つの人格に渡すことは、非常にリスクを伴いますが、上手くコントロールさえできれば、より良い仕事をしてくれるでしょう。」


 女性は立ち上がり、男声に命令を下した。


「この提案が上手くいくとは思いませんが、あなたの部下に、桜井 美鈴の情報を集めることを促してください。日本中にスパイを設置するというあなたの考えが、良い方向に転ぶことを期待します。」


 男性の部下は、日本中の学校にスパイを送り込んでいる。生徒から先生に至るまで、様々なだ。より優れた人材は、表で求人などしても、決して集まらない。優れた人材は、海外で活動してしまうだろう。今まで、優れた人材が海外へと流れていった。

 隠れた才能が、どこかに必ず存在する。しかし、環境下によっては、それは腐ってしまうこともある。それが、男性は、日本にとって、一番の不利益をもたらすと考えていた。

「必ず、お役に立てて見せます。」


「世界の覇権をこの手に。」

女性は、不敵な笑みを浮かべ、右手を握りしめた。

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いじめ返し 早坂 実 @sym1

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