ささくれゲージ [KAC20244]
蒼井アリス
ささくれゲージ
「なんだお前のその態度は! それが人に教えを請う態度か! 私がこれほど親切丁寧に教えているのにお前は文句ばかりだ。恩を仇で返されて私の心はささくれだらけだ。ほら、どんどんささくれていくぞ。お前に私の心の痛みは届かないのか!」
僕がちょっと説明が分かりにくいと言っただけでタケルが反論してきた。口が達者でプライドが高いやつは本当に面倒くさい。
「ささくれ、ささくれってお前はパンダか!」
悪いが僕だって口達者だ。ついこのあいだ箱から出てきてまだ肉体も完全に回復していない平安男子の式神に簡単にマウントは取らせない。僕がいなければテレビのチャンネルも変えられないくせに。
「パンダってあの白と黒の生き物か? なぜパンダだ?……ああ! 笹くれか!……って、うまいこと言ったとか思っているのか! そのドヤ顔止めろ!」
「笹くれ」に少しウケてしまった自分自身に苛立ってタケルはますます僕に突っかかってくる。
「そうだ! お前にも私の心のささくれ度合いが正確に伝わるように『ささくれゲージ』なるものを作ろう。現在の数値は45だ。ちなみに0が心穏やかな状態の数値で100は精神崩壊一歩手前の状態だ。100に達したら心を落ち着かせるために暴れることにする」
「暴れるったって肉体も持たないお前がどうやって暴れるんだ?」
「肉体が回復するまでは言葉を使う」
「お前の声は僕にしか聞こえないんだろ? ということは僕に罵詈雑言を浴びせるってことか?」
「心配するな、罵詈雑言だけではない。無理難題も付けてやる」
ああ言えばこう言う。タケルはたちが悪すぎる。
「説明が分かりにくいと言っただけでささくれゲージが45になるのは心が弱すぎないか? 鬼退治の軍師のくせに軟弱なやつだな、お前」
しまった。今のセリフはタケルのプライドをますます傷つけるに違いない。
「ささくれゲージ60」
冷ややかなタケルの声。炎の色が赤から青に変わるようにタケルの声色が変わった。
炎の温度は赤より青の方が断然高い。僕の失言でタケルの怒りレベルを上げてしまったようだ。
――はぁ~
ああ、面倒くさい。ため息しか出てこない。
僕はテレビのリモコンを手に取り、夕方のアニメの再放送を点けた。
「
僕の名を呼ぶタケルの声色が一変して優しくなった。心なしか瞳も潤んでいる。
「何だよ、急に?」
こんなに急に態度を変えられると戸惑うだろ。
「私の観たかった番組を覚えていてくれたのか?」
「毎日この時間にテレビを点けろとか、チャンネル変えろと命令されれば覚えるだろ」
「ありがとう、有世」
どうやら機嫌が直ったようでホッとしていると、
「ささくれゲージ0」
とつぶやくタケルの小さな声が聞こえてきた。
この傲慢な平安男子は存外純粋なようだ。
純粋すぎて退治する鬼に同情してしまうんじゃないかと少し心配になった僕だった。
End
ささくれゲージ [KAC20244] 蒼井アリス @kaoruholly
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