運命の相手のネジが外れてた【KAC20244】
薄味メロン@実力主義に~3巻発売中
運命の相手に出会った
「あなたは明日、運命の相手に出会って
「……しまう、ですか?」
「ええ。大きな分岐点です。選択を間違えてはいけませんよ」
そんな占いを受けた翌日。
俺はそわそわしながら、高校の入学式に来ていた。
「占いを本気で信じてる訳じゃないけど、やっぱ気になるよな」
運命の相手とか、わくわくするし……
彼女、欲しいし……
そう思いながら、新入生の列に並ぶ。
案内された先で、俺は隣に座る同級生に目を奪われた。
「ピンクのふわふわ……?」
ドレスのような制服を着た女子が、大きなクマのぬいぐるみを抱えながら座っている。
既存の制服を自分らしく改造したのだろう。
似合っているけど、いろいろとやりすぎじゃね?
そう思いながら、俺は正面にかかる横断幕を見上げた。
『個性を認め合う学び舎』
俺がこの学校を選んだ決め手だ。
彼女はなにも間違っていない。
俺は大きく息を吸い込んで、彼女の隣に座った。
「可愛い制服だね」
異色に思ってしまった自分が恥ずかしい。
インパクトがすごかったけど、冷静に見ると、普通に可愛い女子だ。
不意に彼女が立ち上がって、小さな紙を渡してくれた。
「読んで、ください……」
ハート形の可愛い手紙。
慌てて自分の席に戻る彼女を横目に、俺はその手紙を開いた。
『
運命の人へ
あなたのせいで、
心がささくれました。
結婚してください
……うん、はい。
前言撤回します。ヤバイ人です。
チラリと隣を見ると、彼女は恥ずかしそうに目を伏せている。
「えーっと、利根 ルリさん?」
「はっ、はい……。ルリって呼んでください」
「……うん、了解」
誰かに頼まれたわけではなく、普通に彼女が差出人らしい。
『 運命の人 』
『 心がささくれた 』
『 結婚してほしい 』
聞きたいことが多すぎる。
とりあえず、上から順番に、つぶしていこう。
「運命の人、って言うのは?」
「あなたのことです。
「あー……、そう、なんだ」
占いで『運命の人に会う』って言われてたけど、そんなパターンは想定してない。
なんかこう、いろいろあるよね?
曲がり角でぶつかるとか、同じものを取ろうとして手が触れるとか……
いろいろ怖いけど、まずは簡単なものから。
「俺の名前、川下って書いて、カワシモって読みます」
かわしも ゆうき です。
「あっ、そうだったんですね。すみません」
「……いえ」
漢字の読み間違えくらい、全然いい。
本当に些細なことだ。
そんなことよりも、
「はじめまして、ですよね?」
「はい。はじめましてです」
もじもじしてて可愛く見えるけど、やっぱり初対面だった。
では、なぜ、俺の名前を知っているのか。
「学校のパソコンをハッキングして……。漢字しか見えなくて……」
あー、なるほど?
それで読みを知らなかったのね。
うんうん。わかるわかる。
あるよねー。ハッキングしても、中途半端にしか抜き出せないこと。
「ルリさん。近くに先生っていそう?」
「?? 教員のみなさんは、あっちに並んでるみたいですよ……?」
「あー、そうみたいだね」
頼れる大人は、すごい遠くにいる。
校長先生のありがたいお話し中だから、下手に動けない。
「誰かを探してるんですか……?」
「いや、えっと」
あなたから俺を助けてくれそうな人を探しています。
もちろん、そんな本音は怖くて言えない。
「ちょっと見てみますね」
ん? なにを?
そう思う俺を横目に、ルリさんがスマホを取り出した。
「式に参加していない先生は……」
クマのぬいぐるみに隠しながら、ルリさんが手を動かす。
不意に動きが止まって、彼女がぬいぐるみの陰に隠れた。
「トイレと駐車誘導、喫煙所でのおさぼりさんが、1名ずつみたいです……」
「そっ、そうなんだ」
あははー、先生がサボりはよくないねー。
そんな乾いた笑いしか出てこない。
校長先生。
ありがたいお話はいいので、学校のセキュリティを強化してください。
なるはやでお願いします。
「難しい質問なんだけど、警察、弁護士、教育委員会、文部科学省。どれがいいと思う?」
「……えっと。なにが、ですか……?」
入学式が終わってすぐに、俺が電話をするべき相手です。
ちょっと思ったんだけど、その電話が盗聴されたら終わりか?
「ルリさん。電話の盗聴とか、出来たりなんて……」
「……お相手は、おんなのこ、ですか……?」
ルリさん?
声のトーン、下がってませんか?
女の子の電話を盗聴?
「しないしない。興味本位で聞いてみただけだから」
「……聞くのは、私の声だけにしてください。24時間、365日、聞かせてあげれます……」
「そうなんだ。ルリさんはなんでも出来るんだねー。すごいねー」
ヤバイ。普通に怖すぎる。
らちが明かないから、大きなものだけ聞いて終わりにしよう。
手紙にあった不明な箇所は……、
「心がささくれた、っていうのは?」
「……あなたを一目見て、運命の人に間違いないって思って」
ぬいぐるみで顔を隠したルリさんが、恥ずかしそうに頬を染める。
「心が、ささくれちゃいました……」
……うん。
ぜんぜん、わからない。
俺も彼女の真似をして、鞄でスマホを隠す。
えーっと、ささくれる。ささくれる……
ネット辞典
[ささくれる]
1 モノの表面が、細かくさけた状態のこと。
2 指の皮が小さくめくれる。さかむけになる。
3 精神がすさんで、とげとげしくなる
俺の顔を見て、精神がすさんでトゲトゲになった。
だから、責任をとって結婚してほしい。
うん。なるほど。
「ルリさんは、独特な感性の持ち主なんだね」
言葉を飾らずに言うなら、この子、変態です。
心がささくれたなら、求婚じゃなくて敵対してください。
普通にぶん殴って。いや、マジで。
「……はずかしいです」
うん、なにが?
俺は怖いよ??
そう思ったけど、俺の心の声は届かないらしい。
……よし! 決めた!
「まずは、お友達からでいいですか?」
このまま放置しよう!!
そう思った俺は、恐ろしいものを見た。
ルリさんの目から、ハイライトが消えた。
「心のキズは、簡単には、治りません……。ごめんなさい……」
不意に、占いの言葉を思い出す。
どうやら俺は、選択を間違えたらしい。
「運命の相手は、近くにいる。ママにそう聞きました……」
その日から俺の周囲では、不穏な話を聞くようになった。
なんでも、双眼鏡を持ったドレス姿の不審者を見るらしい。
俺の家のポストには、ハートの手紙が入っている。
『
運命の人へ
かわいいおうちだね
』
俺は、運命の相手に出会えたのかもしれない。
運命の相手のネジが外れてた【KAC20244】 薄味メロン@実力主義に~3巻発売中 @usuazimeronn
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