ケンカした朝

リュウ

第1話 ケンカした朝

 朝、目が覚めた。

 スマホは、07:15。

 ゆっくりとベッドから抜け出す。

 窓の前に立ち、重い遮光カーテンを開ける。

 思わず目をそばめる。

 雲一つない青空だ。

「いい天気」一人で呟く。

 こんな天気がいい日は、久しぶりだった。

 空を眺めながら、着替えていた。

「いてっ」指先がシャツにひっかかった。

 人差し指がささくれていた。

 僕は、「ハサミ、ハサミ」と呟きながらハサミを探す。

 ささくれを引っ張って取ろうとすると、余計に傷口が深くなるは、知っていた。

 昔、人間は魚だったらしい。

 この皮膚の模様は、鱗だった証し。

 余計な事を考えながら、ハサミを探した。

 こういう時に決まって、ハサミは見つからない。

 そう、僕は、そんな人間。

 見つからないハサミを諦めて、「仕方ない」と危険を承知でささくれを引っ張る。

「痛っ」

 やっぱり、傷口が大きくなった。

 赤い血が出る。

 血ってこうだよね。

 血って赤いんだよね。

 久しぶりに傷口から、ぷくっと出た血を眺める。

 転ぶことが無くなってから、久しぶりの痛みだ。

 指を口に入れる。

 そうそう、こんな味、血の味って。

 傷テープを指に巻く。


 ささくれか。

 皮膚が乾燥してる。

 栄養不足。

 睡眠不足。

 傷テープを巻いた人差し指を眺める。


 親不孝。

 僕は、親不孝。

 最近、電話していない。

 そういえば、実家からお菓子とか届いていた。

 僕は、親不孝。


 そうだ、昨日は心がささくれていた。

 理由なく、イライラしていた。

 疲れていたからか。

 そして、

 彼女とケンカした。

 彼女に当たってしまった。

 僕は、最低。

 何でもないことでケンカした。

 彼女は悪くないのに。

 僕は、恋人不孝。

 愛情不足。

  

 僕は、ベッドに座ってスマホを手にした。

 彼女に電話をかけた。

 文字じゃなくて、彼女の声が聞きたかった。

 呼び出し音が鳴っている。

 彼女が電話に出た。


「おはよう」


「おはよう、何?」

 彼女の寝起きの声。


「起きてた?」


「今、起きたとこ」

 眠そうな声。布団の中で丸くなった彼女が目に浮かぶ。


「ごめん」


「ん、どうしたの?」


「何となく、誤りたくなったんだ」


 暫く、彼女は考えているみたいだ。


「私もごめん」布団から起き上がった声だ。


「ねぇ、どこか行こうか」僕は、窓の外を見ていた。


「……うん、どこに行くの」


「そうだな、春が見えるところ」

 小鳥の声が聞こえそうな外を見ていた。


「わかった。今、そっちに行くね」


「待ってる」


 僕は、スマホをテーブルに置いた。


 そうだ、パンケーキと紅茶をいれよう。


 ハチミツをたっぷりかけて彼女と二人で食べよう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ケンカした朝 リュウ @ryu_labo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ