私の視点

「離さないで」


 私はそう言って、貴方の胸に身を寄せる。

 ……こうすると貴方は必ず、優しく微笑んで私を抱きしめ、柔らかい手つきで髪を撫でてくれる。


「大丈夫、側にいるよ」


 たったひとこと。

 それだけで胸は満たされて安心する。

 ……でもそれはこの場の一時だけ。少し時間を置けば、私はまた不安に駆られて貴方に縋り、同じ事を繰り返す。

 ……本当に、どうしようもない自分。


 貴方はいつでも優しくて、沢山のものや気持ちを与えてくれる。……でも、私は何も返せてない。


 与えられてばかりの情けない自分。

 いつか貴方に呆れられて、見限られるんじゃないかと不安でしょうがない。

 貴方がそんな事を思ってないのは判ってるのに。


 ……不意に、優しい声色で名前を呼ばれて顔を上げる。

 そこには柔らかい微笑みを浮かべる貴方の姿。


「……何か、僕にして欲しい事はある?」


 まっすぐこちらを見る貴方の目の中に私が映る。

 ……情けない、私の姿が。

 それを見たくなくて、私は視線を下に落とし。再び彼の胸に身を寄せた。


「……そばにいて」


 温かい腕の中、優しさが身にしみて……刺さって、痛い。

 それでも感じる心地よさがある。離れたくない。

 そんな事を考えていたら、貴方が頭を私の肩に当ててきた。


「……いるよ、ずっと」


 小さく聞こえた貴方の声はどこか寂しげで、泣きそうなものにも感じて。

 ……きっと、私は貴方を傷付けてるんだろうな。

 情けなく思いながらも、変われない自分はどうしようもなくて。

 貴方の優しさに甘えたまま、私は目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

かみ合わない気持ち 伊南 @inan-hawk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ