ささくれ 【KAC20244】
KKモントレイユ
第1話 ささくれ
仕事帰りの電車の中。眠っている人、外の景色を眺めている人。新入社員なのだろうか、真新しいスーツの若者。向かいに本を読んでいる美しい女性がいた。
その女性と目が合った。女性は「ちょっといいですか」と言って私の隣の席に座ってきた。驚いた私に「お疲れのようですね」と声を掛けてきた。思い掛けない行動に、変わった女性だと思いながらも優しく感じのいい彼女の言葉に自然さを感じた。
「ええ、なんだか疲れています」
女性は微笑みを浮かべながら、
「指、痛そうですね」
「ああ、これ、ささくれ、ときどきなるんです」
「ささくれ、下に小さな角質のようなもの……」
「ええ」
「普通はそうならないんですよ」
「え」
「
「まさか」
「そういう言い伝えを聞いたことがないですか。蛇に関する言い伝え。あなたの生まれたところには、そういう言い伝えがあると思いますが……」
そう言って女性は電車を降りて行った。
私は変な女性だと思いながら家路に着く。
寝る前に自分の指を見つめる「あれ?」今まで気付いてなかったが言われてみれば『ささくれ』の下に不自然な鱗のようなものが見える。
まさか、気になったがその日は疲れて寝てしまった。
数週間後、職場で友人から「どうしたのその手」と言われ、指先が鱗に覆われる様になっているのに気が付いた。気味が悪いと思い、その日は会社を早退させてもらって近くの皮膚科に行ったが「原因はわからない」といわれた。
その夜、浴室で自分の目を疑った。身体の至る所が鱗で覆われている。
言葉を失う私の後ろに、あの女性が立っていた。
「こちらの世界へようこそ」
白い光に包まれ私は気を失った。
電車のアナウンスで意識を取り戻した。
電車の中には、眠っている人、外の景色を眺めている人。真新しいスーツを着た若者。
向かいに座っていた女性は本をバッグに入れ電車を降りて行った。
ささくれ 【KAC20244】 KKモントレイユ @kkworld1983
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます