79話 それは成った、破滅を齎す主へと。だが、悲しいのならば黒へと変わる
僕の行使した、古代魔法はいとも簡単にユグノアの炎によってかき消された。
それだけに過ぎずその炎が砲弾を溶解させていった。
古代魔法はどうやら邪神にとっては児戯に過ぎないようだ。
どうしようか?これ以上の攻撃を出せるものがオリジンキーの中にあるのかな?
僕の確認した限りだと、今のユグノアを倒せるような装備はなかったはずだ。
レールガンも、マシンガンも、マイクロミサイルも、ユグノアにダメージを与えるには至らなかった。
残る手段はオリジンキーでの直接攻撃のみ。
近づいたら燃やされそうだけどな。
それでも、効果があるのならやらなきゃいけない。
ユグノアを見ると、炎というにはあまりに異質な揺らぎ方をしていて、それでいて黒い炎が彼女を邪神なのだと思わせるような恐怖感を浴びせている。
まるで、人ではないような形。
トカゲのような、ドラゴンのような何とも言い難いその姿に本来ならば、精神を壊されてしまうような畏怖を感じているはずだった。
しかし、オリジンキーの精神汚染無効によって、ユグノアのその姿を見ていても平気だった。
危ない、危ない。この効果がなかったら、僕はたちまち発狂していただろう。
「私の本来の姿を見て、発狂しないだなんて...その人形が悪さしているのかしら?」
「でもどうだっていいわ。今から、滅却するのだから。」
ユグノアが何かを詠唱し始める。
それは不愉快で、聞くに堪えない、聞くこと憚れるような、そんな音。
海上の魚人たちももがき苦し始める。
頭を抱えて、吐く魚人。
狂乱し仲間同士で攻撃をする魚人。
魚人たちはその詠唱によって、発狂させられていた。
統率の取れなくなった戦艦はコントロールを失い、戦艦同士での戦いとなっていく。
砲弾が飛び交い、たちまち火の海へと変わっていった。
ディゴンさんはユグノアの詠唱に耐えれているが、何か行動ができそうになかった。
これが邪神なんだ。
少しでも勝てそうだなんて、希望を見いていた僕はその無力感に絶望を抱きそうになっていた。
「やめろ、ユグノア。もうやめろ!」
僕はパワードスーツを捨てて、オリジンキーをユグノアに向けて振るう。
冷静さを失った突進のような斬撃をユグノアが見逃すはずがない。
ユグノアはふっと笑って。
「さようなら、お人形さん。」
詠唱を終えた、ユグノアが終わりを告げる。
正しく一点。
黒点が太陽に成り代わる。
そうして、黒点は鼓動をする。
爆発するかのような前兆とともに、振動する空気。
焦げ付いた匂いが肌を焼く。
チリチリと大地が焦げていく。
この都市全体が燃えているかのような錯覚?
違う、錯覚なんかじゃない。黒点の余波によって、燃えている。
都市が焼却されているんだ。
まずいと思っても、僕の体は動けない。
黒点の波動を近くで食らいすぎて、空中でのバランスが維持できなくなってきていた。
「あっ......」
そう思った時にはもう、僕の体は自由落下していた。
それを制御することもできずに黒点の波動が僕を押し飛ばす。
どこに落下しているんだろう。
分からない。
ただ、灼けるんだ。
このまま、あの邪神に燃やされていくんだ。
そう思うことしかできなくなっていた。
「悲しまないで、哀しまないで。貴方を悲しませるのは、誰?」
悲しさを表現するかのような声と色。
真っ黒なドレスの少女が落下していた僕を抱きとめていた。
「君は、いったい誰なんだ?」
一瞬、途轍もない何かを感じたが、表情に現われはしなかった。
それが憂いを帯びていたのは確かだった。
エゴライグリーア @Fulance
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