78話 古は神に通じず、その代価は火種となる。


鉛の海の何百隻もの戦艦。


その乗組員は魚人で、その中でもひと際大きく目立つ旗艦が一隻。


旗艦から紳士風でモノクルをかけた男性がこちらに向かって手を振っていた。


にこやかな笑顔を張り付け、口の動きを読ませるように口を動かていた。


「 ディゴンでございます。アニマ殿、クゥトゥ様の仇を討ちに参りました。 」


それを言い終えた、ディゴンは右手を上に挙げる。


そして、その右腕をユグノアに対して振り下ろした。


「...っ!クゥトゥの眷属共か!また、裏切るというのか......やはりあいつの眷属はダメね。」


ディゴンのジェスチャーに合わせて、数百隻の戦艦がユグノアに向けて一斉掃射を開始する。


空に劈く轟音、鋼鉄の弾丸が空を埋め尽くす。


ユグノアは真っ黒な炎をベールのように纏い自身の身を守る。


何千発もの砲弾がユグノアのベールに着弾していくがユグノアのベールは壊れる気配がない。


ディゴンがまた、口を動かしてこう言った。


「 ここが最大火力を叩き込むところですよ。あんな邪神、やってしまってください! 」


「聞こえないだろうけど、ディゴンさん。ありがとうございます!クゥトゥ様の為にも全力を叩き込みます!」


返事は聞こえなかったはずだが、ディゴンさんは満足そうに頷いてくれた。


あのユグノアのベールを打ち破るには、この対邪神用装備達だけでは火力が足りないだろうな。


それから魚人たちの戦艦も恐らく対邪神用のもののように見える。


というのも、この繁栄都市の防衛機構を開放しているからだ。


たぶん、繁栄都市の人達は海底にでも仕舞っていたんだろうね。


それをすでに見つけていたディゴンさんが魚人を率いて使っているというのが僕の推測だ。


ディゴンさんはしごできかもしれないな。


そんなことを思いつつ、魔力変換炉を起動し、古代魔法の準備を始める。


今回、僕が行使する古代魔法は【古き冰】。


前に行使した【古き水】は、海中にいた魚人を殲滅したからなぁ。


【古き冰】の威力も間違いなくそのくらいだと思った方がいいね。


「それじゃあ、いくよ。【古き冰】」


そう宣言すると魔力の渦が一気に冰へと変わっていく。


そしてその冰が僕の創造する通りの攻撃に構成されていく。


それは冰の波動。


触れた生命を絶対凍結させる、冰の砲撃。


パワードスーツから魔法陣が現れる。


冰の結晶が5つ生成され、その結晶から魔力が収束されていく。


収束された魔力がまた中心にある冰の結晶へと収束する。


極光を放つ冰の結晶はユグノアのベールを剥がす一筋の矢となる。


何千、何万発の砲弾を耐えたベールは冰の極光に触れた瞬間に砂のように落ちていった。


ベールを破られたユグノア、その顔に曇りはなく、むしろ笑顔を見せていた。


まるで破られてからが本番だぞと言わんばかりの表情。


ユグノアは古の冰を片手で握り潰し、燃やし尽くした。


それだけではその炎は収まらず、撃たれ続けていた砲弾を一瞬で溶解させる。


「邪神である私に古代魔法如きが効くわけがないだろう?」


僕は古代魔法を過信しすぎたのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る