【KAC20244】裏切りへの報復

下東 良雄

裏切りへの報復

 私の名前は花澄かすみ。高校一年生。

 自分ではそれなりの美少女だと思ってる。

 だって、何度も告白されてきたし、お誘いも受けてきた。

 男の子は私みたいな女の子が好きらしい。


 でも、そんなのは全部お断り。

 私に見合う男性はひとりだけ。

 私の彼氏のけいだけだ。

 慧は長身かつイケメンで、頭が良く、運動神経も抜群!

 さらに、何と言っても実家がすっごいお金持ち!

 本人はあまりお金に頓着はないみたいだけど、ここでガッチリ押さえて、何だったら既成事実を作ってしまえば、全部私のものに!

 可愛いってだけで人生楽勝になっちゃうのね……。


 そんな慧が浮気しているらしい。

 偶然彼を街で見かけた友人が動画を撮影してくれていた。


 慧と手をつないで歩く小柄な女。中学生くらいか?

 顔もはっきり映っていたが、大して可愛くない女だ。

 そして、ふたりはそのままホテル街の方へと消えていった。


 動画を見ながら、心が激しくささくれ立っていく。

 慧が寝取られた! あんなブスに! この私を差し置いて!

 許せない! 絶対に、絶対に許せない!


 ささくれ立つ心に、胸が苦しくて痛い。

 復讐してやる……報復よ!

 でも、ただ痛い目に会わすだけでは面白くない。

 私の利となるように報復しなければ!


 私は早速セフレのひとりを呼び出した。

 いい女にセフレは必須。後腐れ無くエッチができる男をキープしておくのは、女性としての身だしなみのひとつだからね。

 今日は危ない日だけど、生でさせてやった。セフレは大喜びだ。終わったんだから、さっさと帰れ。


 さぁ、あとは近いうちに慧と生ですれば、托卵の一丁上がりよ。

 私を裏切った罰は、責任をとって私をめとり、自分と血のつながりのない子どもを育てること。気付かない慧の姿を見る度に、私の溜飲が下がる。私を裏切るからこうなるのよ。これなら慧の家の財産も私のものになるし。私って頭いいわ。


 明日は慧を色っぽく誘わなきゃね。

 ゴム無しでいいよと言えば、男は間違いなくヨダレを垂らして乗ってくる。

 明日が楽しみだわ……♪


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 慧は……あっ、キタキタ。ようやく登校ね。

 お仕置きタイムのはじまりよ!


 あら、慧の方からこっちに来たわ。

 鴨が葱背負って、ってヤツかしら。


「花澄、おはよう」

「慧くん、おはよう」


 花澄スマイルで男はイチコロ♪


「ねぇ、慧くん……今週末、ウチ誰もいないんだ」

「そんなことよりさ、これ見てくれる?」

「えっ、そんなことって……ゴム無しでいいんだよ?」

「ゴム有りも無しも、花澄とそんなことしたことないだろ」

「うん、だから初めてはゴム無しで……」

「それよりもこれ見て」


 慧ったら、教室だから照れてるのかしら。

 何だったら学校でエッチしたっていいのに。

 そんな風に思いながら、慧の差し出したスマホを覗き込む。

 えっ、この子って慧の浮気相手――


「僕の妹なんだ」

「えっ?」

「身体が弱くてね。今も毎週県立中央病院に連れて行っているんだ」


 ドキリとする私。

 県立中央病院は、位置的には駅からだとホテル街の向こうだ……


「去年までは車椅子だったんだけど、最近長い距離を歩けるようになったんだ。ただ、どうしてもふらふらしちゃうから手をつなぎながらだけどね」

「へ、へぇ〜……」


 浮気じゃなかった……

 真っ青になっていく私を無視して、慧は続ける。


「普段は、幼馴染みの真美まみが面倒見てくれていてね」

「ま、真美さん……?」

「花澄も知ってるよね……」


 慧の声のトーンが落ちた。

 わ、話題を週末のエッチに無理やりにでも持っていかなければ!


「ね、ねぇ、そ、そんなことより週末のことなんだけど……」

「週末がなに?」

「えっ、だ、だからゴム無しで……」

「するわけねぇじゃん」

「えっ?」


 私の誘いを即拒否した慧。

 この私と生でできるのに、なんで……

 不思議そうな表情を浮かべる私に、慧はスマホである動画を再生した。


「あっ……」

「これ、花澄だよね?」


 私とセフレがホテルに入っていくシーン。

 しかも、この時のセフレは慧の部活の先輩だ。

 血の気が引く私。


「ち、違うの! わ、私――」

「他にもセフレがいるよね。ボクが認識しているだけでも7人」

「あ……う……」

「間違いなく二桁の人数のセフレがいるよね?」


 何の言葉も出てこない。


「真美からも聞いたよ。花澄に脅されたって」

「ウ、ウソよ、そんなの!」

「おかしいと思ったんだ。急に『慧とはもう会えない』なんて」

「あ、あんな女、誰がどう見たってブスじゃない! しかもデブ!」


 慧の目つきが変わり、ビクッとする。

 目が語っていた。『殺すぞ』と。


「ボクから見れば、お前の方が醜い。ボクにとって、真美以上の女性はいない」

「あ、あんなデブ……」

「念のため、真美の家族は全員ウチで保護している」


 言葉の出ない私。


「先輩からも聞いたよ。避妊もせずに、最後までしたって」

「ち、ちが……」

「で、今度はボクとゴム無し? バカかお前」

「わ、私は……」

「真美に拒絶されて落ち込んでいるボクに声を掛けてきたのも計算づくだろ。正直、ボクも心が揺れ動いたよ。でも、君はボクを騙し、裏切った!」

「ゴメンナサイ! セフレは全員切るから! だから、だから!」


 私に侮蔑の視線を浴びせる慧。


「ボクは君に報復する。ボクは君を絶対に許さない!」


 慧は、私に背を向けて教室を出ていった。

 クラスメイトの視線はすべて私に集まっている。

 くそっ! 見るな!


 また別の男を探せばいい。

 男は慧だけじゃない! 私の可愛さなら――


 ポコン ポコン ポコン ポコン ポコン ポコン


 クラス中のスマホからチャットの着信音が響く。

 何事かと自分のスマホをチェックした!


「!」


 慧が私とのこれまでの経緯をクラスのグループチャット上に暴露していた。写真や動画も添付されている。

 クラスメイトから私に侮蔑の視線が注がれる。


 キーンコーンカーンコーン♪


 始業のチャイムは、破滅の鐘の音となり私の耳に飛び込んできた。

 ささくれ立った心で苦しくて痛い。


 でも、苦しくて痛いのは胸ではなく、下腹部だった。

 お腹の中で何かがささくれ立っていくのを感じる。


 私は、これから訪れるであろう未来に絶望した。



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