ささくれ様
一河 吉人
ささくれ様
「ああ~、こりゃ見事な反乱軍だなあ」
「あれ、朔ちゃん指なんか見てどうしたの? ネイル?」
「いやね、これ見てよ。この見事なささくれ」
「ささ……くれ?」
「あれ、こっちじゃささくれって言わない? さかむけ?」
「どっちも聞いたことないし、そんなの見たこともないよ」
「あー、慶子はお嬢様だから指先が荒れることなんてないか。これこれ、この皮がちょろっと剥けてるやつがささむけね」
「うわぁ、痛そう……あかぎれとは違――って、朔ちゃん! また私を騙そうとしてるでしょ!」
「え?」
「そういやっていつもいつも嘘情報を私に教えて! この前の『世界3大ギタリストは「リッチー」「インギー」「村下孝蔵」』だって大嘘だったじゃん! 私、お父様に大笑いされてとっても恥ずかしかったんだから!」
「どう考えてもその並びは無理があるだろ、気づけよ」
「酷い!」
「ハハハ。でもね、今回は本当の話さ。なんならネットで調べたっていい」
「ほ、ほんとに?」
「うん、辞書にだって載っているはずさ。で、このささくれは、元々は河童やあかなめと同じで妖怪なんだ」
「ええっ?」
「ささくれ様――あるいはさかむけ、さかはげとは中国に由来する怪異で、『ささくれ、ささくれ……』と言いながら暗い山道を徘徊しているという。ほら、うちは実家四国じゃん? あそこの落人伝説と習合して生まれたんだって。筍の皮を剥ぐように人の皮を剥ぐから竹剥き、笹剥きでささくれ、あるいは指先から逆側に皮を剥いていくから逆剥けだと言われているね」
「か、皮を!?」
「そうだよ~。この妖怪に捕まると『一枚、二枚……』って全身の皮を剥がれてしまうんだよ~」
「ちょ、ちょっと止めてよ」
「ささくれ様、その姿はむくつけき大男で」
「ヒッ!」
「全身毛むくじゃらで」
「だ、だから!」
「恐ろしい牙や鋭い爪を持ち」
「朔ちゃん!」
「雪のように真っ白で」
「もうヤダァ」
「でも両の手足や目の周りは真っ黒らしい」
「パンダでしょそれ!」
ささくれ様 一河 吉人 @109mt
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