ささくれの精霊

闇谷 紅

眠れぬ夜に

「はぁ」


 明日も朝が早い。だからこそさっさと寝ないといけないと布団に潜り込んだのだが、一向に寝付けない。布団の中でもぞもぞと寝返りを打ってみても何も変わらない。


「『まんじりともせず』って『少しも眠らない』って意味だったっけ?」


 まさに今の状況がぴったりだなとくだらないことを考えて、羊を数えてみて、天井をぼんやり眺めてみて。


「……あれ?」


 やがて僕は不思議な場所に居た。真っ白でぼんやりとして、そこがどれだけ広いのかもわからない。


「あぁ」


 どうやらようやく眠れて、夢を見ているらしいと気づいたのは、かけ布団と敷布団、そして枕がどこにもなく、そこが布団を敷いた部屋ですらなかったからだ。


「……目覚めましたか」


 だというのに、空気を読めず声をかけてきた何者かが居た。


「わたしは、ささくれの精霊」

「いや、夢を見るにしてももうちょっとまともな夢にしようよ!?」


 自己紹介の言葉に叫んでしまったのはきっと無理もない。僕の夢と言うことは声の主の言動も考えたのは僕だと思うのだが、ささくれの精霊ってなんだ。


「確かに指に出来たささくれがふとした拍子に気になることはあるよ?」


 だが、それを精霊と組みあわせるセンスが我ながらわからない。


「そもそもそんな精霊出して来て夢の中で何する気なの、僕?!」

「あの……もしもし?」


 なんか大冒険とか始まるんだろうか。何かさっき精霊って名乗った声の主が話しかけて来てるけど。


「こう、当人に直接尋ねるのが早いんだろうけどさ。だけど、だけどよ?」


 夢ってことは僕の深層心理が影響してるってこと。精霊の答えによっては僕自身が精神的なダメージを受けかねない。


「ほら、えっちな展開だったりするとさ、『僕ってそんなにムッツリスケベだったんだ!』とか『欲求不満だったんだ!』なんてことになるし」


 こう、自分でも気づかなかった異常性癖がここで明らかになってしまうなんてことだってあるだろう。


「いやいやいや。これはもうなかったことにしといたほうがいいって、きっと!」


 夢を見てるってことは寝ているんだ。もうこのまま声には応答せず朝までこの夢の中で過ごしてしまった方がいいに違いない。


「そうに決まってる! 今僕が決めた!」


 僕が強い決意を胸に断言すると。


「人の話を聞けぇぇぇぇ!」

「おぼっ」


 僕の腹部にものすごい衝撃が突き刺さった。


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ささくれの精霊 闇谷 紅 @yamitanikou

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