可愛い文鳥さんと、ささくれ指

ハンターシーカーアルゴリズム

ささくれ

 しがない大学生の僕は、今日も居酒屋で昼夜続けての皿洗いのバイト。

 人気店なので量も多いから手荒れが酷い。バイト代は稼げるけどね。


 ささくれを剥いたら血が出て来て痛い。


 でも嬉しい。

 何故かって?




「文鳥さん、帰りましたよー」


 アパートの玄関のドアを開けると、文鳥さんが喜びの鳴き声とともに飛んで来てくれた。


 俺の肩にとまると頭をぐりぐりと擦り付けてくる。


 可愛い!


 道端に落ちていて死にそうになってたのを拾い、飼い主を探したけど見つからなかったのでそのまま飼う事にしたんだ。


 ケージに入れても自分で戸を開けて出てくるほど賢いやつで、部屋の中で自由にさせている。頭も良いからトイレも決まった場所へ出来るし。


 小食で餌も殆ど食べないんだよな、この子。

 可愛い文鳥さんはトイレなぞしない! を文字通り実行している。

 ケージの掃除も殆どしなくて良い、飼うのがとっても楽な可愛い子である。


 ソファ代わりのベッドの上でスマホを見ながら寛いでいると、僕の手荒れの酷い指先

 を文鳥さんが心配そうに覗いてくる。


 そんな文鳥さんに僕は嬉しくなって指先を差し出すと

 文鳥さんはガジガジと指を噛むささくれを引き剥がし、血の出た所を舐め取ってくれる。


 犬とかも怪我したら舐めてくれるとか言うし心配してくれてるんだろうな。

 と僕はほんわかする。


 ささくれを啄ばむ文鳥さんが心なしか美味しそうにしているのは気のせいか。

 そういえば、拾った時の夜も、ささくれで滲んだ血を舐めてくれた後、元気になってたな。



 文鳥さんをお迎えしてからは何だかんだで金が掛かるので、バイトとか嫌いだったけど文鳥さんが家に来てからバイト三昧の毎日。


「イタッ」


 いつの間にか僕の両手のささくれは全て剥ぎ取られ手からは血が滲み出ている。


 文鳥ちゃんは血のついたささくれを美味しそうに嘴の中でもぐもぐしながら僕を可愛らしく見上げてくる。


 赤い目で。



「皿洗いのバイト増やそうかな」


 そうすれば手荒れも増えて文鳥さんはもっと喜びそうだし。


 夜しか動かない文鳥さんはukekekekekekeと嬉しそうな鳴き声を上げた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

可愛い文鳥さんと、ささくれ指 ハンターシーカーアルゴリズム @3fqv7i2buzdlk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ