第四十三話 天空の竜騎士
「レイン! 早かったな!」
「なんか、前来た時より立派になってないか?」
「ああ。もう、この村は病気じゃない。レインのおかげさ」
「ほら、見てみろ」
「そういえば、リンドウは」
「そのことなんだがな」
覚悟は、してる。アカネでもないんだ。あんな高さから落ちた人間が助かるわけがない。
だけど、アカネの反応が良く分からない。いつもみたいに何か隠してるって感じでもない。
「それが、あれから数日後に村へ戻って来たらしい。奴が私たちを殺すために脱獄したことを知っていた村人は当然警戒した」
「どうやって助かったんだ?」
空の上でドラゴンに振り落とされることは、死を意味する。
「それなんだが、落下する直前に助けられたらしい。連れてきたドラゴンにな」
「人は変われるのだな。荒んだ村人が笑顔を取り戻したように。君が、仲間のために戦う選択をしたように。リンドウも、ドラゴンに助けられてからは自ら村のために竜騎士として尽くすようになったそうだ。今ではユリにこき使われている」
「頭のおかしな魔術師って言ってたのにな」
「君がこの村に来てから、ユリも変わったんだ。地上から帰ってから、ユリは雨雲病を根絶するために村中を周り、すべての病人に特効薬を投与した」
「それで、なぜ地上に? わざわざ様子を見に来たわけではないのだろう」
「話があるんだ。ユリを呼んでくれ」
「ああ、わかった」
「久しぶりですね、レインさん」
「そうか? 一週間もたってない気がするけど」
「そうですね。ただ、この数日はいろいろありました」
「それで、話とは何ですか?」
「俺は、傭兵の国に行こうと思う。この銃を返さないといけないし、それに……」
「世界一のドラゴンライダーになりたい、ですよね」
「ああ。だから、一緒に来て欲しいんだ。他の国では、何が起こるか分からない。
「そうですね。彼らは少なくとも味方ではありません。信用できる味方の条件は、利害が一致していることが大前提。私達は彼らに生きるか死ぬかの二択を迫られているだけです」
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
「これから見極めていけばいいですよ。二か月間、空の旅にでも興じながら」
「私の夢を手伝っていただいたので、次は私の番です」
「良いですよね、アカネさん」
「ああ。この村はもう、君たちがいなくても大丈夫だ」
「アカネも来るだろ?」
俺もユリも、戦う時は相手と距離を取るタイプだ。ジェシーに乗ってれば大丈夫だけど、クジラの中ではアカネみたいに強力な前衛が絶対に欲しい。
「いや、私は母様の看病をしないといけないからな。ついてはいけないさ」
「何日、何週間、何年後かわからないが、もしまた誘ってくれるならば、私も……」
「入っても、よろしいですか?」
「母様!」
「まだ完治していないのですから、安静にしてください。悪化したら私が困ります」
「ユリは相変わらずだな」
「ふふ。かつての大魔術師、アイランを思い出しますね。彼女の口の悪さは筋金入りでした」
アカネとは雰囲気が違うけど、ところどころの発言がアカネにそっくりだ。
「ええ。全部師匠のせいですよ。師匠がクジラの話なんかするから」
「あなたが、レインですね?」
「二十年前、この村に降りた英雄にそっくりです。その者の名は確か……スコール」
「そっくりに見えるか」
「ええ、瓜二つです。まるで親子のよう」
「あなたになら、アカネを任せても大丈夫ですね」
前は、アカネを連れていくためにレースで実力を証明する必要があった。でも、今は違う。
「行ってきなさい、アカネ」
「でも、私には村の事や、母様の事が」
「この一週間、あなたが欠かさず新しい装備の手入れをしていることは知っているのですよ」
「母様! 私の寝室には入らないでほしいとあれほど……!」
「物騒な音で深夜に起こされるのですよ」
「かの英雄、スコールは言いました。翼は飛ぶためにあると。腕は大切な物を掴むためにあるし、目は世界の全てを見るためにある。ならば、剣は磨くためでなく、大切な物を守るためにある。違いますか?」
「かわいい子には旅をさせよと言います。子供の自立を助けよという教訓ですが、アカネには窮屈な思いをさせてきました」
「なので、これからは自由に生きてほしいのです。村の事や後継ぎはリンドウに任せなさい。あの子は心を入れ替えました」
「村長の娘としてではなく、仲間として、君たちの旅に同行させてほしい」
「レインさんの言葉を借りるなら、私たちはもう友達じゃないですか」
「……はっ、この年で友達なんて気恥ずかしいな」
「ああ。これは、天空の竜騎士としての冒険。その始まりの一歩だ」
「行こう。御伽噺をハッピーエンド(めでたしめでたし)で終わらせに」
新しい世界に向かって羽ばたいた。
ハイランド・アイランド 白間黒(ツナ @dodododon2
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