11 新たなる仲間

「それで? あなたは誰」


 突如部屋に響き渡った、筆記音。音の出どころである黒板には、今度はこういう文字が白く浮き出ていた。


『わたしはわたし お願いたすけて』。


「そういえば、この階はあの、タスクがでないのだな」

 その文字に思うところがあったのだろう。

 クルガさんがそうつぶやく。

「これ、でしょうね」

 この黒板を見る。

『そうよ わたしはあなた達の導き手』

 今までの視界の端での文字は何だったんだろうかと文句をいいたくもなるが、この階はなのか、この階からは、この黒板の書き手がこの迷宮を案内してくれるらしい。

『まずは、仲間を待ちましょう』

「仲間?」

「つまり待っていれば誰か来るってこと?」

「そういうことなの――」

 だろうな、とクルガさんがつぶやくと同時に奥の扉からガチャリと音がした。


「うおっ、本当に誰かいる」

「ホントだね、ジルバ! 女の子と……男の人かなっ!?」

 二つとも少し、私たちより幼い声だった。

「こんにちは~?」

 少年たちは手に黒板を持っていた。

 取り外し可能なんですね? 黒板さんは。

「こんにちは! お姉さんたちもいつのまにかここにいた人?」

「ということはあなたたちもなんですね、名前をお聞きしても? あ、私はイリシャともうします」

「俺はクルガという」

 いつのまにか少年たちが出てきた扉の奥に消えていたクルガさんが、扉の隙間から顔だけ出している。

 あ、名前だけ言ったらひっこんだ。

「えーっと」

 顔を見合わせるだけで少年たちの話し合いは済んだらしい。

「俺、ジルバっす」

「あたしは、ニーリエ。ニーリとかリエって呼んでもいいよ!」

「どうもよろしくです」


 さて、この危険な迷宮でのんびりのほほんタイムはほどほどにして……。

「クルガさん、帰ってこないですね」

「俺らが入ってきたあの扉、奥はレンガでできた迷宮なんすけど……」

 ん? 材質に注目した?

「迷宮いったことあるの?」

 別に迷宮の内装は、石とかで固定されているわけじゃない。

 一回も迷宮に行ったことがない人なら知らないはず。

 迷宮攻略を題材とした娯楽本がでているらしいから、その線もあるけど。

「あたしとジルバはねー、フェレスっていう迷宮の近くに住んでるの。昔っからの知り合いでー、イリシャさんフェレスって知ってる? 難易度が低いんだよね、子供でもいけるくらい。それで経験を少しばかり積んだの」


 迷宮フェレス。規模的には大迷宮と称されるほど、確か階層約100以上、宝箱出現場所はその10倍以上にもなる広い迷宮だったはず。

 誘惑の悪魔の名前からとられたという俗説のあるこの迷宮は、様々な誘惑が多い。

 主に娯楽だが。

 お菓子がモチーフのかわいらしい装飾の階層や、きれいな海をモチーフにした階層。

 そんな感じで難易度的にも低い部類だが、そういう迷宮によくある特徴として己との戦いになることが多い。

 お菓子は毒、海は沈むなど、まぁこちらからなにかしなければ引っかかることの少ない罠ばかりがおかれている。性格悪い。


 とはいえ、特徴しか覚えてないからわからないことは聞いちゃおっと。

 あの迷宮って、面倒な罠とかあったっけ?

「罠って見分けつく?」

「俺は勘。だから規模の大きい罠とかは気づくんだけど、細かいやつは無理、苦手」

「あたしは逆にタイルの色の違いとかには気づくの、細かいやつね」

 ほうほう、いいバランスのパーティなのね。

「逆にイリシャさんはいったことあるの?」

「私は迷宮で案内役みたいなことやってたんですよ。戦闘はからっきしだけど迷宮内では役に立ちますからね」

 なにしろ迷宮にはさんざんいったからねぇ。

「あ、俺戦闘は得意なんだ、任せてくれ!」

「あたしは魔法使いなの、回復がメインだけど攻撃もできるよ」

「ちなみに今ここにいないクルガさんですが、彼は軍人だそうです。戦闘職のプロです。戦闘面で危ないことは当面ないかと」

 ちょっと残念そうな顔をしたジルバ少年。

 身の安全が第一じゃないか。危ないことは、ないだけいいじゃないか。

 君ぐらいの年頃の少年の冒険者の心情はよくわかるけどもさ。


 がちゃり。


 おやドアの音。クルガさんのお帰りですかね?

「イリシャ」

「はいはいなんでしょうか」

「入ると、この部屋のタスクを確認できる」

 随分端的ね。

 それがどうかしたのか、言ってくれ。

「はあい?」

「あっ、タスク? 何個か達成できてないのあるんだけど……」

 申し訳なさそうにしているニーリちゃん。

 まぁまぁ、結構序盤のくせに難しかったから仕方ないよ。


 そもそも、アイズが撃破できることを知っている人はあんまりいない。

 迷宮の罠には下手に手を出さないっていうのが定石。

 アイズは罠で罠モンスターだとは認識されてない。

 鑑定士を攻略メンバーに入れている珍しいパーティしかいないだろう。

 ギルドも情報公開で情報は出しているけど広まらないのが現実。


 だからなんで? って思いはある。

 この迷宮は有名じゃない、知らなくても困らない、そんな知識をちょこちょこ試してくる。

 困らないっていったけど、この迷宮ではそれが続くと攻略不可能が起こる気がする。


「俺たちが攻略した場所とタスクが違う」

 戻ってきながらクルガさんが言う。

「それに若干向こうのほうが暑い気がする。気のせいかもしれないが」

「えぇ? おんなじ階層内で温度違うことあるの?」

 前代未聞聞いたことないよ?

「来てみればわかると思うのだが」

 クルガさんがチラリと黒板さんを確認する。

 まぁそうだね。進むべき道としては、私もまったく理解できていない正体不明黒板さんの救出が目的なんだけど。

『あら、助けてくれないのね』

『わたしは別にそれでも』

 あれ?

「黒板さんってこっちとそっちで別人物?」

『そう』

『大っ正解! よくわかったわね』

 主にテンションの違いで。同時に別のこと喋れないだろっていうのもあるけど。

「で、よさそうなんで行っちゃいますか」

 いざ新たな仲間をつれてタスク完全攻略へ。

あ、黒板さんは邪魔になりそうなんで。置いていった。


「こんな感じで、モンスター討伐系統のタスクはクリアしたんですけど……」


『タスク:隠し部屋の発見』


 あうふ。

 一番面倒くさいの残ってる。

 私ここ来てないからどんな構造かとかわからないのね?

 あと迷宮構造って基本普通に考えてありえないのが多くて予想できないから。

 螺旋階段状の階層の後に戻る形で下り坂が延々と続くめっちゃ怖いマップもあった。

 いや下り一本は怖いよ。転がってくる系等の罠が一番怖いよ。


 さって話がそれたけど、第一階層その二、攻略していきますか。


 クルガさんがくぐっていった扉をもう一度みんなでくぐる。

 ……えーっと?

 すぐにもう一枚扉。まあよく考えたらそうだったねぇ。私たちもソウダッタモンネ?

 その扉を開ける。部屋。扉。

 え? これだけ?

 レンガ造りの部屋先ほどの部屋となんっにも変わんないんだがぁ?

 まぁまぁ、もう一枚扉を開けましょうか。

 私とクルガさんが目を若干点にしたまま進んでいく。


「はい、こんな感じなんです。……ずっと」

 はい?

「助けてくださぁい」

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起きたら大迷宮に閉じ込められていた 白昼夢茶々猫 @hiruneko22

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