ストレス爆散!

異端者

『ストレス爆散!』本文

 ああっ、チクショー! もう人類滅べ!


 俺はそう叫びたくなる衝動をかろうじて抑えた。

 街中を歩いている最中に突然そう叫んだら、奇異の目で見られることは間違いないからだ……というか、なんでこんな夜中なのにこんなに人が居るんだ。こんな時間まで労働を強いる日本はつくづく腐っていると感じる。

 周囲から見たら、俺はしょぼくれたオッサンにしか見えないだろう。必死に労働したところでその対価はすずめの涙。こんな年になっても、何も得られないままだ。


 俺の心はどんどんとささくれ立っていった。


 思えば、努力しても苦労しても何も得られるものはなかった。

 小さい頃から、もう保育園になったんだから、もう小学生になったんだから、もう中学生になったんだから――親にもそんな風に言われ続けて、努力が認められることはなかった。努力も苦労もして当たり前、そんな感じだった。

 したくもない部活動をし、行きたくもない塾へと行った。それを親がめたことは一言もなかった。苦労してテストで高得点を取っても「次はもっと頑張れ」とけしかけるだけだった。そのくせ、点数が低ければ執拗しつように俺をなじった。

 社会人になれば、夜中まで働いて帰るのが当たり前。実家にお金を入れても、それも当たり前だった。

 親だけでなく、上司もそうだった。自分の思い通りに動いて当たり前。そうなれば何も言わないが、そうならなければ罵倒ばとうするだけだ。まともな評価などされたことは一度としてない。同僚にも「都合が良い人」扱いで、良いように使われている。

「面倒ならアイツに頼めばいいよ。アイツならやってくれるだろ?」

 そう陰で言っていたことも、俺は知っている。

 いっそのこと、爆弾でも抱えて街中で自爆すれば少しは気が晴れるかもしれない。

 俺はその光景を想像した。


 自爆した俺と巻き込まれた人々の飛び散る肉片。上がる悲鳴。辺りにはもうもうと煙が立ち込め、まだ爆発の熱が残っている。……最高じゃないか!?


 まあ、ここまで正当な評価もせずこき使ってきた相手に一矢報いることができないのは残念だが……いや、マスコミ共は俺を育てた親や働いていたブラック企業を責めるだろう。もっとも、それを見ることは叶わないが。


 もう、自爆しちまおう! そうだ! それがいい!


 俺はスマホを取り出して爆弾の作り方を検索しようとした。

 突如として視界が炎に覆われ轟音が響いた。


 気が付くと、病院のベッドの上だった。体中に包帯が巻かれていた。

 年老いた医師からは、社会に恨みを持つ男の自爆テロに巻き込まれたのだと聞かされた。

「自分が不幸とはいえ、それを無関係の人間にぶつけるとは……迷惑な人間も居たものだ」

「ええ、その通りですね」

 医師の言葉に、俺はためらわずうなずいた。

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