『ささくれヴァンパイア』

チャーハン@カクヨムコン参加モード

ささくれヴァンパイア

 私、宮前鈴佐みやまえすずさがささくれヴァンパイアを知ったのは数週間前にネットを用いて情報収集していた時だ。一度閲覧したことのある単語が並ぶ中、ささくれとヴァンパイアがくっついた造語を見た私は眉をしかめた。


「なにこれは……本当にミステリーなのかしら?」


 ミステリー関連にツッコミを入れない私でも動揺した。指にちょっとだけ生まれる固めの傷とヴァンパイアが組み合わさるだけでもおかしいのだ。それがミステリーに関連するともなれば、違和感を覚えるのは無理もないだろう。


 しかし、私を止める理由にはならない。そもそもミステリーはダメで元々、興味を持てればそれでよいのだ。ゆえに、調査をしない選択肢は最初から存在しなかった。


「とりあえず、調査してみるかしら」

 

 私はそう言いながら検索サイトにそれを入力した。次に現れたのは、数百件の関連内容だ。一番最初に表示された動画を開くと、重々しいタイトルコールと共に動画が流れ始める。


 懐かしさを感じるようなVHS映像と共に、ギシギシとフロアを歩く音が響き渡る。録画主の光源は懐中電灯ひとつらしく、あまり周りをみえていないらしい。場所としてはどこか寂れたホテルの中だろうか。


「中々リアリティがあるわね……面白そうじゃない」


 そんな想像を膨らませていると、映像に変化が訪れる。突然男の声がうるさくなり始めた。「やばい、やばい」「このままだと、死ぬかもしれない」というような焦り交じりの声が直に伝わってくる。


 だんだん足音が強くなり、映像のブレが大きくなってくる。私は食い入るように動画を眺めていた。これからの展開がどうなるのか無性に気になったからだ。


 しかし――私は絶望した。


「ささくれヴァンパイア、好評発売中」

「…………はぁ?」


 突如映像が切り替わり、宣伝が再生されたのだ。しかも、明らかに官能系の作品だったのである。ささくれヴァンパイアの正体。それは官能系小説のネタだった。


 対象の体にささくれが生まれるようにする呪いをもたらすヴァンパイアを主人公として描いた物語らしい。打ち切りになったらしく、それを発散するためにミステリーとしてでっち上げたのだろうか。


 私は番宣が流れた画面を睨みつけた後、背もたれに体を任せた。


「……今日ははずれだったなぁ」


 私はため息をつきながらパソコンの電源を切り、ため息をつく。不完全燃焼になったミステリーの熱をどうやって解消するべきか思考を回していた時だった。

 右手の人差し指に触れた途端、ちくっとした痛みが生じた。

 

「いてっ」


 痛みを感じた指を見ると、そこには――ささくれが出来ていた。


「動画を見たからささくれが出来るとか……いやいや、考えすぎか」


 私は顔を軽く縦に振った後、違うミステリーを調査することにしたのだった。

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