第3話 ハナミズキ

 「おはよ〜!久しぶりだね!!!香苗の所にこんな場所あるなんて知らなかった!!」

そんなことを言っているのは高校の時が最後の友達、奥原朋美《おくばらともみ》だ。彼女の性格は明るく高校の時はクラスの誰とでも仲良くしていた印象がある。当時はそんなに絡みはなかったがなにかと今でも連絡を取り合う様な仲になっている。


 「香苗、事務の仕事してるんだっけ?凄いなぁ。ずっと続けているんだもんね。私なんて前の仕事辞めちゃってさ〜、尊敬するよ〜笑」そんな笑い顔の裏には何か言いたいような事があるのは感じたが私自身それを感じ取ることが出来なかった。


 「そうだね。ずっと同じ職場で働いているよ笑。毎日同じことの繰り返しで面白みを感じなくなってきてるけどね笑。」


 「ってかさ、香苗の所にこんな場所があったなんて良いよね!なんか心がリフレッシュ出来そう!!」そう。今私たちがいるのは少し小高い所にあって町を見渡せるような山の上。ここ最近どこに行こうかと探していた時にたまたま見つけた場所。


 「良いよね。私最近、こういう風景とか風の匂いとかが好きになっちゃってさ!最近始めたカメラ持って週末は写真を撮りに少し走っているんだ。」


 「そうなんだ…あ、そうだ!あそこに咲いているハナミズキの木と一緒に写真撮ろうよ!!」少し変な感じがした気がするがあまり気にせずにそっと返事を返した。


 「うん!誰か撮ってくれる人居ないかな?」そう探していると犬の散歩をしていた女性に声を掛けて撮ってもらうことにした。


 「うわぁ!よく撮れてるね!!!」そうはしゃぐ朋美の笑顔に釣られて私も笑ってしまう。「高校の時みたいだね!一緒に笑いあってさ!懐かしい〜!」すごく楽しそうだ。


 「ねぇねぇ!この後ご飯行こう??」朋美の誘いに「行こうか!」


 私たちはついさっきいたところを降りて少し行ったところあったカフェに入った。雰囲気もいい感じで店内には挽いた後のコーヒーの匂いとジャズピアノの音色で言葉では言い表せない様な雰囲気を醸し出していた。ボックス席に案内された私たちはコーヒーとホットサンドを2つ注文して話をしていた。


 入店後少し経って注文のしたものがテーブルに届いた時朋美の口から「香苗さ、私仕事辞めたって言ったじゃない?次の仕事、実は決まってなくて笑。けど私取り敢えず最近、海外に行きたいなって思ってるんだ!けどそうなるとお金かかるじゃない?それで最近夜のお仕事始めてみたんだよね笑」私は少し驚いた。朋美が風俗のお店で働いていることに。でもそれを私に話してくれたことが1番驚いている。


 「そうなの!?」驚きを隠せない。

 「え?何何?いつから?稼げているの?家族も知ってるの?私以外も知ってる情報?」朋美に質問攻めをしてしまった…


 「笑。まぁまぁ。落ち着いて?ね?」コーヒーを勧められて一息つく。


 「まぁ。正直どんな世界か知りたかったっていうのと、今まで夜の時間は自分の時間だったからそこで働いてみたくなって昼間の空いた時間で何か次の仕事見つけれたら良いなって思ったのが始めたきっかけ。稼ぎはね、まぁ。ぼちぼちかな。精神的にくることはあるけどね笑あとなんだっけ、家族も知ってるかどうかだけどお母さんは知ってるの。心配してくれたし最終的には背中押してくれたから。友達だと香苗しか知らないよ?高校の時もそうだったけど相談乗ってくれたりとかしてくれたし、口も堅かったしね笑」

 そう言って冷静に答える朋美に結構勇気を出して話してくれたのだなと私は思った。


 「けどそういう考え方私も好きだよ。私も変わり映えのない1日1日に冷めてきてた所だったし正直、辞めようか考えていたしね笑私が仕事辞めたら紹介して??笑」冗談混じりで朋美にお願いして冷めてしまったホットサンドを口元へと運んだ。




 外はすっかりと茜色に染まり小学生の子供達が「じゃあねぇー!」と大きな声で話す時間で「そろそろ私たちも帰ろうか!」と朋美が切り出して、「香苗に話せて良かったよ!正直怖かったし反対されるのかなって思っていたけどちゃんと話聞いてくれてさ!やっぱり持つべきものは友だよね!笑仕事辞めたくなったら連絡してきなよ!!!待ってるから!」朋美のそのニコッと笑う笑顔が真っ赤に染まっていて照れ隠しのつもりだったその言葉も夕日の茜色でなにも隠せていなかった…


 朋美と別れてから私は部屋に戻り今日撮った写真を見返しているとあの小高い山の上でハナミズキをバックに2人で撮った写真が目に止まった。その時は何も思わなかったが今思うとハナミズキの花言葉が


“返礼”

“永続性”

“想いを受け取って下さい”


だと言うことに気付き朋美は話を聞いてくれた私に対しての感謝や友達としての絆を伝えたかったのかなと1人思いながらカメラの電源を落として朋美に「今日はありがとう!楽しかったしまた行こうね!!」とメッセージを送って寝る段取りを始めた…


また明日から仕事。


自分がやりたい事とはなんだろうか。そんなことを考えさせられる1日だったなと思いながら眠りについた…






 「おはようございます!!」

 今日も元気いっぱいの亮太くんの声が職場に響く。

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