第2話 これからの自分自身

 新人の入社報告から既に1ヶ月が過ぎ元気な挨拶が職場に響く。


 「おはようございます!!」そう言っているのは勿論新人の彼だ。そんな彼と職場の同僚との会話を横耳に私は聞いていた。


 「会社には慣れたかい?話しやすい人は出来た??」とテンプレートかの様な周りからの質問攻めに淡々と答えていく彼の返答。

 「皆さん優しくて毎日が楽しいです!あの事務の方はいつもあの様な感じなのですか??」一人人間観察の様に聞いていた会話の中に私の話題が出た。


 「そうだなぁ。いつもあんな感じだよ。」どこか私との距離を感じさせる様な上司の返答。彼は私と話をしたいのだろうか?上司にいろいろと聞いているが少し聞こえずらい。そう思っていた矢先、新人が私の方に歩いてきた・・・


 「おはようございます。初めまして、今月から入社しました松下亮太です。よろしくお願いします!すみませんがお名前を伺っても良いですか??」みんなと仲良くしたいのだろう。少し面倒臭さを隠しながら亮太君に「おはよう。私は岩田。これからよろしくね。」簡潔に答えた。


 「岩田さん、こちらこそよろしくお願いします!迷惑でなければ下の名前も教えて貰えませんか??」凄く何事にも積極的な性格なのだろう。初めましてで下の名前を聞かれるなんては正直思ってもなかった。そんなことを思いながら驚きが顔に出てしまう。


 「あ、香苗です。」


 笑った顔で「ありがとうございます!香苗さん改めてこれからよろしくお願いします。」と言われ去って行った新人の亮太君。その背中を見送って私は一息ついてまたいつもの代わり映えの無い業務をこなしていく。


 今日も一日が終わった。家までの帰り道、春うららの夕方に桜の花びらが散って風で舞う。桜と夕日のコントラスト。私はこういった風景が好き。いつもの変わらない仕事とは別に瞬間的に変わっていく風景が好き。そんな事を思いながら帰る帰り道。ふと新人の亮太君のことが頭に思い浮かんだ。私とは感覚が違うのかもしれない。年齢が近い人と話をしたのはいつぶりだろうか、そんな事を考えながら家の近くのコンビニで温かいレモンティを1つ買った。


 部屋に着きいつものように携帯で動画を見ていると私と同い年位の子達が動画を出している。何かと派手な事をしている動画にはその子らの今後の〝夢〟に対しての動画もあった。見ていくと「将来は色々な人たちと関わりながら自分自身の好きな事をします!」他とはあまり関わりを持たなかった私にはあまり感じるような事は無かったが自分自身の好きな事をすると言う事には考えさせられた。私自身、風景やその場所の表情、空気の匂い等の事が好きだ。そんな事を趣味にでも出来たらと思いながら画面ではカメラを調べていた。


 その週の週末初めて買ったカメラを手に外へ。普段は部屋から出ることのない私にとっては未知な感覚だ。動画一つで影響されるくらい単純なんだなと一人笑いながら歩く。


 風も少しあって桜の花びらが舞う。陽の光に当たりキラキラと宝石の様に輝く川とそこではしゃいでいる家族。一通り写真を撮り終えベンチでタバコを吸う指先をも美しく見えてくる。「私、こんな性格だったのだろうか。こんな週末の過ごし方もいいな」そんな事を考えながらもう頭では来週の事を考えていた。「どこへ行こう・・・」


 部屋に帰ると通知が一つ鳴った。結婚報告の友人とは違う人だ。内容は「私、仕事辞めて再就職したんだけど久々に香苗に会いたくなって!今度の週末そっちに遊びに行くから一緒にご飯行こ??」私は彼女が辞めた事も知らなかったし、少し問い詰めようかと思いながら「いいよ~」と返して私自身、写真の事も話そうと思いながら軽めな返事を返した。


 来週、雰囲気の良い場所探しにでも誘おうと思い眠った・・・

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