朝顔の咲く季節にまた。

柊華(しゅうか)

第1話 3/7日

日付

3/7木曜日

天気



 今朝は雨脚が見えるほど雨が強く降る1日。

 私は部屋のカーテンを開けて一つため息を吐き今日も仕事への朝支度を進め一人お湯を沸かしていた・・・

 先週はどこでも卒業式だったのだろうアイロンの掛ったスーツ、制服姿の親子が並んで歩いているのを見た。制服姿の女の子の抱えている花束とその手に握られているクシャクシャになったティッシュには分かりきっている様で楽しかったであろう学校生活を想像させられる。

卒業。

 当の昔の事のように思える日は昨日の事のように鮮明に思い出せる。卒業式、泣いていた先生。またねと手を振って別れた友達・・・その後、私は高校卒業後に就職。地元を離れ一人県外での内定を貰い今となっては当時の友達とは半月に数回の連絡を取るくらいだ。そう思いながらお湯が沸くのを待ち携帯を触っている。


 通知が1件、昨日だ。友人からの報告連絡だった。

「私事ですが今回隣にいる男性と結婚しま~す!」と笑顔で笑う二人の写真付きで送られてきた。卒業してからまだ数年の内に結婚。と早いなと思いながらももうそんな歳かと老いも感じ「おめでとう」の一言。嫉妬感と祝福の感情が溢れている中でやっと出たそっけない返事が画面をなぞる。


 そうこうしているうちに部屋を出る時間になって沸かしたはずのお湯は少し冷めていた。「行ってきます」も随分と言っていない。


また今日も一日が始まる。


 会社に着くなり業務開始。私の仕事とは一般的に言えば普通の事務員だ。書類の整理、社内の連絡。毎日同じ事の繰り返し。誰かにプログラムされて機械的に動いているかに思えるほど代わり映えのない風景が目の前にある。朝の五月蝿い雨の音とは違ったパソコンを叩くまた違う五月蝿い音。休憩には誰と話す事もなく一人静かに喫煙所へと足を運んでいた自分に朝の結婚連絡の事が頭を過る。左手には社内の自動販売機で買った温かいレモンティ。私は喫煙所に入るなり1本タバコに火をつけ一息。いまの私には至福とも言えるこの時間。タバコに頼ってなのかしたい事が出来ている自分がほんの少しだけ好き。非喫煙者と違う事をしていると言う特別感が好き。と、裏を返せばそれだけだという事も事実。

 そう思いながら火を消してまた仕事へと戻る。終業間際、上司から「来月新しく入社してくる新人がいるからよろしく!」と頼まれた。専ら会社への登録関係、保険の手続き等々だろう。私は「はい」と一つ返事を返した。


 会社を出るころにはお昼過ぎまで降っていた雨もすっかりと上がり道にできた水たまりには街頭の灯りが反射しそれを踏んで歩いている通行人で歪む世界に幻想的な雰囲気を感じながら足を進める。家へ帰るとキッチンの小さな電気一つ、慣れた手つきでお風呂、食器の洗い物、洗濯とこなし昨日の残りのおかずで一人晩御飯を済ませ携帯の灯り一つしか灯らない自分の世界へとまた今日も入っていく・・・

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