ささくれは標準語…さかむけは?
中島しのぶ
ささくれ? さかむけ?
わたし、TS娘の中島しのぶと申します。
女子化の要因――トリガー――はネイルを塗ることで、ご縁があってネイルサロンの店長をしています。
休憩時間、お店の子二人がなにやら言い合っています。
何かしら? と聞き耳を立てていると――。
「……だって、うちじゃ『さかむけ』って言うもん!」
「こっちじゃそう言わないし〜。普通は『ささくれ』だよ? それどこの方言?」
「ほ、方言じゃないもん。わたし生まれも育ちもTS市だもん」
「あ〜じゃぁ、お父さんかお母さんがTS市以外の出身なんじゃない?」
「ちがうちがう、両親もTS市じゃないけど県内だよ〜」
「じゃ、おじいちゃんかおばあちゃんだ」
「そうかも……たしか小学校の時、夏休みにN県に行ったような……」
「それだ〜!」
「でも! 『さかむけ』はさかむけだよ〜」
「あ〜もう、アカデミーではちゃんと『ささくれがあった時の施術方法』って習ったでしょ!」
「もう! ミカのアホ!」
「ユミの分からず屋!」
***
お客様の『ささくれ』を見つけた時に、ユミという今年入ったばかりの子が「『さかむけ』がありますので、ネイルニッパーで取り除いておきますね〜」と言ったのが発端らしいんですよ。
それを聞いたお客様と、隣で施術していたこちらも今年入ったばかりのミカが笑い出したんですって。
その場はそれで収まったんですけど、お客様がお帰りになり休憩時間にミカちゃんが蒸し返したようです。
あ〜あ、これはなんとかしないといけないですよね……わたしは二人を店舗のバックヤード――店長室代わりに使っています――に呼びました。
「い〜い? 二人ともあまりお店で騒がないこと。
ユミちゃんのお家では『ささくれ』を『さかむけ』って言うんでしょ?
それはN県の方言かもしれないけど、かわいらしくていいわね〜」
「はい」ユミちゃんは返事をしてくれましたけれど、ミカちゃんはまだむくれています。
「ミカちゃんはミカちゃんで、ネイルアカデミーで習った……というか標準語の『ささくれ』って直してあげようと思ったんでしょ?
それは間違えを直してあげようと思ったミカちゃんのやさしさだと思うな」
「はい……」ミカちゃんはまだ不満げです。
「じゃ、こう考えたら? お客様も『さかむけ』って聞いて笑ってくださったし、ユミちゃんも標準語では『ささくれ』って言うのがわかったんでしょ?
でも、ユミちゃんもちょっとガンコだったかな〜って」
「そ〜うですね」とミカちゃん。
「……ごめんなさい、わたしもムキになっちゃって。ごめんねミカちゃん……店長、ご迷惑をおかけしました」と頭を下げる。
「いいよ〜『ささくれ』が『さかむけ』ってわかってくれれば」
「でも〜わたしはお店でも『さかむけ』って言うんだ〜」
「な、なんでよ〜!」
「だってその方がお客様が笑ってくれるでしょ?」
「も〜」
……ま、いいでしょ。あまりお店で騒がなければ……。
若い子たちを相手にしてると、わたしの心がささくれ立っちゃいますからね……。
Fin.
ささくれは標準語…さかむけは? 中島しのぶ @Shinobu_Nakajima
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます