ささくれ? さかむけ?

三国洋田

第1話 どっちがいい?

 多分むかしむかし、あるところに、爪の周辺の皮が乾燥してめくれ上がってしまった状態を『ささくれと呼ぶ派』と『さかむけと呼ぶ派』と『どっちでもいい派』と『どうでもいい派』と『細かいことは気にするなよ派』と『そんなことよりうどんを食べて寝たい派』と『そんなことよりそばを食べて寝たい派』と『そんなことよりラーメンを食べて寝たい派』と『そんなことよりスパゲッティを食べて寝たい派』と『その他諸々派』がいました。


 ある時、ささくれと呼ぶ派とさかむけと呼ぶ派の間で、呼び名を統一しようという気運が高まってきました。


 そして、ついに両派閥で話し合いを行うことになりました。


「では、話し合いを始めます」


「ささくれでいいだろ」


「いや、さかむけの方がいいだろ」


「え~、ささくれでいいじゃん。ほら、なんかささくれって、パンダが笹をおねだりしているみたいな感じでかわいいだろ」


「いや、さかむけは痛いものだろ。痛い感じがするさかむけの方が適切だと思うぞ」


「いやいや、痛いからって名前まで痛くする必要はないだろ。かわいいものでいいじゃないか」


「いやいやいや、実際痛いんだから、それっぽい名前にしないとダメだろ。変な誤解が生まれてしまうかもしれないぞ」


「いやいやいやいや、かわいいささくれの方が……」

「いやいやいやいやいや、痛そうなさかむけの方が……」

「いやいやいやいやいやいや、かわいいささくれの方が……」

「いやいやいやいやいやいやいや、痛そうなさかむけの方が……」

「いやいやいやいやいやいやいやいや、かわいいささくれの方が……」

「いやいやいやいやいやいやいやいやいや、痛そうなさかむけの方が……」



「なんかもうどうでもいいんじゃないか?」


「ああ、細かいことは気にするなよ」


「そんなことより、うどんとそばとラーメンとスパゲッティを食べて寝たい」


「あーしはピッツァが食べたいっす」

「いまは焼き肉の気分でごわすよ」

「おすしがいいでござるよ」

「わたくしはそうめんの気分よ」

「ハンバーグ、圧倒的にハンバーグ!」

「今週はカレー週間だろ!」

「麻婆豆腐……」

「お子様ランチ一丁」


「関係ない派閥のヤツがいないか?」



 三日三晩話し合っても決着は付きませんでした。


 仕方ないので、両派閥で勝負をして、勝った方の呼び名で統一することにしました。


「では、何で勝負しましょうか?」


「じゃあ、ささくれ自慢勝負にしようか?」


「え~、痛いから嫌だよ。サッカーにしようよ」


「サッカー? なんで?」


「うーん、なんとなく?」


「俺、サッカーなんて、もう何十年もやってないぞ」


「こっちもだよ」


「というか、運動自体を全然やってないぞ」


「こちらもそうだ」


「だからこそ、公平でいいんじゃないか?」


「なるほど、確かにそうだな。じゃあ、それにしようか」


「ああ、そうしよう」


「では、サッカーに決定します」



 試合当日。


「では、始めます」


「よし、行くぞ! ……ぐあっ!? 腰がっ!?」


「うぐっ!? いきなり足がつったっ!?」


「ぐげっ!? 足ひねったっ!?」


 開始から十数分で、全員ケガをしてしまい、勝負は有耶無耶になってしまいました。


 そして、統一しようという気運は消えてなくなりましたとさ。


 めでたしめでたし?


 おしまい……



 と思ったら、また呼び名を統一しようという気運が高まってきました。


 その後、両派閥で話し合いを行い、多数決で決めることになりました。


 結果は『そんなのどうでもいい』が一位でした。


 呼び名を統一しようという気運は完全に消えました。


 今度こそめでたしめでたし。


 おしまい。

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ささくれ? さかむけ? 三国洋田 @mikuni_youta

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