無限の箱部屋
春眠ねむる
箱の中身は
――――今、私の目の前には手のひらサイズの、小さなハコがある。
それが、家に届いたのは昨日の事だった。いつものように仕事に出て、家に帰ってポストを開けると近くの道路工事のお知らせのチラシ、近くに出来たらしいトレーニングジムのチラシとともに、小箱が入っていた。差出人も受取人も書かれていない、まず伝票も貼られておらず、どこの配送業者の持ってきたものかすら分からない。
「……悪戯か?」
まず思い浮かんだのは近所の子どもの悪戯か何かで、箱を開けたら玩具が飛び出してくるあれじゃないか、ということ。どこか物陰で此方の様子を伺って私がこれを開けたら笑いものにする気ではないだろうか。だがしかし、辺りの気配を伺っても人がいる気配はなくて。それに時刻は既に夜の二十二時過ぎ、子どもが居るわけもない。
兎に角、いつまでも外で立ち尽くす訳にもいかない。私はこの小箱を片手に自宅に入った。
「開けるべきか……」
机の上に小箱を置いて、その前に座る。小箱はダンボールのようなもので出来ていて、上部が差し込み式タイプの箱だ。外側には模様も何も書かれていない。試しに少し揺すってみると、ガサガサと音がした。何か入っているらしい。
――――その時だった。足元がぐらぐらと揺れる。地震だ、咄嗟に机にしがみついたがよくよく考えると別に机の足は床に固定されているわけじゃないからこの行動は無意味だ。だが、幸運にも揺れはすぐに収まったようで、私は息を吐いて座り直す。
「あ、箱…………あれ?」
机の上を見ると箱がない。先程の揺れでどこかに落としてしまったのだろうか。首を捻り辺りを見回す。小箱はすぐに見つかった。机の下に落ちていたからだ。手を伸ばし、拾いあげようとして気づく。
――――箱が、開いている。
「中身は――――」
床にぶつかったときに開いてしまったのだろうか。中に入っていたものが落ちている痕跡はない。じゃあまだ中に、そう思い拾いあげた小箱を覗きこんだ。
「えっ、私の……部屋?」
小箱の中に広がっていたのは、手のひらサイズの小箱の中に『私の部屋』があった。同じベッド、同じ机、同じキッチン。全く部屋と同じレイアウトが箱の中にはあった。そして。
「ひっ」
二つの黒い眼が、此方を見ている。机の前に座って、手のひらに小箱を乗せた、小さな私が、其処にいる。小さな私の手のひらの小箱の中は、また小さな私が――――
がたがたがたという音が鼓膜を震わせて、眩い光が上から差し込む。まさか、そんな、でも。
――――見上げた私の両の眼もまた、きっと小箱の中の私と同じものを映しているのだろう。
無限の箱部屋 春眠ねむる @sleeper_xx
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます