#ささくれチャレンジ

鬼灯 かれん

#ささくれチャレンジ

 #ささくれチャレンジを知ったのは、ささくれで剝がれた皮膚を口の中で咀嚼している時だった。多くの痛々しい指の写真が、SNSにアップされていたのだ。

 より痛々しいささくれの投稿には、千を超えるいいねがついている。


 一体何が面白いのだろう。


 たった今自分で引きちぎったささくれの傷口を眺める。

 深くえぐれた傷口の奥には、赤々とした血の色が見え、タイムラインに流れていたどんなささくれよりも大きいように思えた。何とはなしにスマホでその写真を撮ってみる。


『冬の乾燥ツラーい(泣) #ささくれチャレンジ』


 何をしてるんだ、私は。バカバカしい。

 下書きを消そうとした。


 だけど、と指が止まる。最近の投稿はいいねが少ない。そろそろ新しい流行を取り入れておかなければいけない。


 そう考え直して、投稿のボタンを押してすぐだった。

 驚いたことに、いいねの通知がひっきりなしに鳴り始めたのだ。返信も多く届いている。


『でっかいささくれ!』

『こんな凄いの初めて見た』

『かわいいネイルに大きなささくれでギャップ萌え』


 まさかささくれごときで、ここまで反響が来るとは思わなかった。

 昔からささくれには悩まされていたのだ。こういう体の張り方でいいねがもらえるなら、案外悪くない。


 私はそれ以来、一日に何度も手洗いとアルコール消毒を繰り返した。冬の乾燥も拍車をかけ、指先はどんどんボロボロになっていく。

 そうして大きく育ったささくれを歯でちぎっていく。指先でちぎるより、歯でやった方が大きくちぎれるのだ。

 そうしてできた渾身のささくれチャレンジ写真は、一万いいねを超えた。


 気づけば私は四六時中手を洗い、アルコールを指先に塗りたくり、大きく剥けそうなささくれを探しては、歯で引きちぎるのを繰り返していく。

 ささくれを引きちぎる痛みも、大きく取れる皮膚も、全てが快感になっていた。


 今ではもう、#ささくれチャレンジの投稿でいいねは付かなくなったが、ささくれ作りは続けている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

#ささくれチャレンジ 鬼灯 かれん @Gerbera09

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ