おれさぁ、ささくれ嫌いなんだよね

ゆる弥

息子の話

「パパー。これいたい」


「おっ? どうした!?」


 息子が五歳の頃、顔を歪めて私を呼んだ。

 一体どうしたのかと思い見てみれば、さしだしてきた指にはささくれが。


「これかぁ。ピッて取ってやろうか?」


「いやだよ! いたいじゃん!」


「えー? そうか? とっちゃえば痛くないんじゃないか?」


「ちぃでるもん。いやだよ!」


「じゃあ、そのまま絆創膏はるか?」


「ぼく、ささくれきらい」


 息子が頷いたのでそのまま絆創膏を貼ることにした。

 私はささくれなどはいつも引っ張ってとっていたのだ。

 だからそこまで痛い物だという認識がなかった。


 たまに血が出ることはあっても、舐めてすませていた。

 今はそんなことダメなのだろう。

 菌が入らないように消毒して絆創膏をはるのが一般的な対応なのかもしれない。


 息子は絆創膏を貼ってやると笑顔になり、おもちゃで遊びだした。

 遊んでる間は気にならないのだろう。

 楽しく遊んでいる。


 そんな息子も、今やもう小学六年生、十二歳になっている。


「お父さん? ちょっときて」


 体も大きくなり、言うことも生意気になってきた年頃である。

 呼ばれることも少ないのに一体どうしたのか。


「なにしたー?」


「これどうしたらいい?」


 差し出した指には長いささくれが。


「そのまま絆創膏はるか?」


「それだとずっと張ってなきゃいけないじゃん」


 これまでの経験でいろいろとわかってきたようだ。


「じゃあどうするよ?」


「爪切りで切ってよ」


「自分で切った方がいいんじゃないか?」


「きれないから呼んだんじゃん。早く切って」

 

 私は笑いを必死にこらえていた。

 生意気なくせに自分でささくれが切れないわ、痛いというわ。

 まだまだ子供だなと思うと笑みがこぼれる。


 爪切りで切ってやると絆創膏を貼る。


「これでいいか?」


「うん。サンキュー」


 コイツは本当に生意気だな。

 親を呼びつけておいてサンキューとは。

 私が父親にそんなことを言ったら殴られることだろう。


 時代が変われば親とのかかわり方も変わってくるのだろう。


「おれさぁ、ささくれ嫌いなんだよね」


 ボソッっと言った息子。

 七年経っても変わらないところもあるんだな。


 最近生意気で息子に腹を立てることが多いが、可愛いなコイツと思った瞬間だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おれさぁ、ささくれ嫌いなんだよね ゆる弥 @yuruya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ