最期の子【KAC20244】
にわ冬莉
滅びゆく──
黄泉の国へ行きたいと願う
そこがどんなところかも知らずに
私の愛した人たちがいるだろうか
私を愛した人たちがいるだろうか……
ザザザ、ザザ、と画面にノイズが入るように記憶の断片が見え隠れする。
私は、人類最期の子。
滅びゆく世界をこの目で見た。
巨大な船の中から、選ばれた百にも満たない人間たちと一緒に。
彼らは人類の技術と知能の最先端を行く、エリート中のエリートだった。
本当ならどこかの
私は運よく、技術者の娘としてこの船に乗っていたから助かったけれど、これっぽっちの人間で人類の再生など、叶うとは到底思えなかった。
大人たちは船の中で、自らが作り出した人工知能を持つアンドロイドと共に生活を始める。目下一番に進めなければならないのは、新しい命の再生と住処の確保だろう。
「トワ、ここにいたのですか」
声を掛けてきたのは私の母を模した姿のアンドロイド『パスト』だ。何もそんな名前つけなくても、と、父には言えなかった。
「そろそろ食事の時間です」
「わかった」
私はパストに手を引かれ、食堂へと向かう。
母に似せてはいるけれど、全然似ていない作り物の手。傷もささくれもない、滑らかでしっとりとした、温かい手。
数年間は、それでよかった。
現状を嘆きながらも、皆は精力的に働き、未来を創っていこうと躍起になっていたのだ。躍起になることで悲しみや不安を押し隠すことが出来た。
けれど……、
ある日、研究者の一人が病魔に侵される。今まで経験のない、未知のウィルスだった。
そして次々に、命が尽きて行く。
「トワ……すまない」
父もまた、私の元を去って行った。
言いようのない孤独感と恐怖が押し寄せてくる。病に侵され死を待つのも、生き残り独りになるのも、同じくらい恐ろしい。
「大丈夫です。私がいます」
微笑みかけてくるパストの顔は亡き母の複製。
──私は人類最期の子。
人類の複製品。
最期の子【KAC20244】 にわ冬莉 @niwa-touri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます