ささくれ

MURASAKI

サイコパスは堂々と嘘をつく

 爪の横の皮のささくれ。何のことは無い小さな傷だが、指の先には多数の血管が通っているのですぐに血が出てしまう。しかも、割と大量に。神経が多く通っているので敏感で、地味に痛い。

 見ている人も血を見れば「大丈夫?」と声をかける。知らない仲であっても、血を見る場面に遭遇すれば大丈夫だろうかと思うぐらいはするだろう。


 もし、それが心の中で見えない場合はどうだろうか。


 とある会社の、とある小さな部署。そこに配属されてきた女は中途採用だというのに、きゃぴきゃぴしてやたら男に媚びた。


「これ、やってもらえる?」


 今と同じ仕事をしていたと言うので、仕事をしていたなら理解できる程度の簡単な仕事を渡した。すると、いつまで経っても上がってこない。しかし、質問もされてはいない。

 どうしたのだろうかと見ると、パソコンの前でフリーズしたまま動いていないではないか。


「どうしたの? もう就業時間になるけど難しかった?」


 やさしく声をかけるといきなり泣き出した彼女は、分野が違って分からなかったと泣いた。

 仕事に於いて、泣くということがどれだけ周りを萎えさせるか理解しているのかどうかは知らない。ただ、泣かれてしまうと今後の仕事の割り振りに困る。

 分からないことを分からないと言えないプライドの高さが垣間見え、今後のやり辛さを感じた。仕事で一番困るのがをされることで、教えるところがどこまでなのかこちらも分からない。


 そもそも、中途採用なのである程度の力量のある人を採用しているはずである。

 しかし、どうやら彼女は自分の経歴に嘘をついて入社したであろうことが、半年ほどして分かってきた。最初の三カ月は使用期間でもあるので、会社の仕事を覚えてもらう期間だった。

 似たようなことをしていても、会社が変わればルールが変わる。それを教えるのが私の仕事だった。しかしどうだろう、ぽろぽろとミスが増えてくる。指摘すると「ああ、忘れていました」と平気な顔で言う。呆れる。

 そのくせ自分に仕事を全部任せて欲しいというので、やらせてみる。


「ここどうですか?」

「ああ、ここはこうするといいよ。うん、そうだね」


 こうして教えたところが良く出来ていると評価された資料。しかし彼女はこう言った。


「私ひとりで頑張って、教えてもらわず出来たんです」


 嘘だ。私が教えたところだ。それなのにそんな嘘をつくことに何の利点があるのだろうか。もし一人でやろうとしたときに、何もできない自分に絶望するのではないのだろうか?

 しかし、彼女はあちこちで平気で次々嘘をついていることが分かった。巧妙に、上塗りを続ける。


 自分がであると少し誇張してアピールすることは、生きていれば何度かはあるだろう。

 しかしプライドが高いが故に、自分よりもつく嘘はたちが悪い。


 そうやって少しずつ傷つけられ、私の心の中に出来たちいさなささくれは血を流した。やがて彼女がつき続ける嘘の数々でついた私の心の傷は皮が分厚くなり、少々のことでは響かなくなってくる。

 そうなると、もうなりふり構ってはいられない彼女は、どうにか敗北させたくて仕事とは関係ないどうでもいい事を上司に報告しはじめる。嘘に嘘を重ね、何とか私を引きずり降ろそうと画策をしたのだ。

 上司は彼女の言うことを信じ、私からは何の話も聞きに来なかった。私一人に彼女の面倒を丸投げしたくせに、劣等感の塊だった上司は私のことが気に食わないので、そういった事はなにも聞かないのだ。


 最後には、先輩で上司でもある私のことを裏では「同僚」と呼び、同僚が気に食わないと人に話して悪口を言ったり、同情をひいたりしていたことを知る。


 分厚くなった皮がささくれたらどうなるか。


 出血は大量でなかなか治らない。そう、傷跡を広げるために彼女が付き続けた嘘が勝利したのだ。


 私は疲れて会社をやめた。


 するとどうだろう、居なくなったのを良い事に「自分は教えてもらっていないので仕事ができない」と言いはじめたそうだ。呆れて物が言えないとはこのことだ。


 しかしよく考えてみると、彼女の心もささくれて分厚くなっていたのではないのだろうか。嘘をつき続けることで、自分の心に感じる敗北を麻痺させていたのではないだろうか、と。


 憶測なので本当のところがどうかは分からないが、この嘘つきは間違いなくサイコパスだ。ひとり暮らしや世帯主にしか適用されない家賃手当を、彼氏と同棲するのに一人暮らしと嘘をつき、会社から横領しようとしていたのも知っている。(適用されたかどうかは辞めたあとのことなので知らないが、会社に通報はした)


 あなたの周りに、嘘をつき続けてどれが嘘だったかもわからない、そんな人は潜んでいないだろうか。

 仕事上で関わらなければならないのは本当に辛い。

 人を踏みにじるような人間は、絶対に本性を見せないので気を付けて欲しい。


 心のささくれが分厚くなる前に、周りに相談して逃げて欲しいし、上司の立場にある人は相談されたら適当にあしらわず、必ずどちらの言い分も聞くようにしてほしい。

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