ささくれ小噺
楠秋生
親不孝者のささくれ小噺
えー、お題は『ささくれ』ってことですが。あれって地味に痛いですよね。
ついつい気になって剥いちゃって、悪化させちゃうんですよね。爪切りとかで丁寧に根元を切り取ればいいものを、爪先の方へ引っ張れば大丈夫、とか勝手に考えて結局余計に痛くなる。
ささくれ。逆剥けともいうけど、親不孝するとなるってよく言いますよね。なんでだか知ってます? え? 調べたら由来はないって?
えー、ではここで小噺をひとつ。
あんまり繁盛してない和菓子屋さんがありましてね。まぁ、繁盛してないんだから当然段々と店は傾いていく。
親孝行な息子なら、ここで「俺が立て直してやる!」と踏ん張るんですが、ここの息子は親不孝者でね。さっさと親の商売に見切りをつけて、とっとと出ていってしまったんです。
息子が出ていったあと、父親は地道に頑張って働き続け、何とか店は盛り返してきたんですね。
家を出て数年あちらこちらを放浪して無一文になっていた息子は、この噂を聞きつけまして、ひょっこりと帰ってきたんですよ。しかもですね。景気の良くなった店の売上をひとりじめしたいと考えて、親を追い出してしまったんです。
親は泣く泣く村はずれの茅屋に移り住みました。桜の季節で花見の客がたくさんやってきて、息子はもう、うほうほです。
そこへお偉いさんから大量の注文をしてもいいかと打診が入ったんですよ。ケタ違いの注文だったんですが、実入りの多さにこの息子、二つ返事で引き受けました。
「本当に全部できるのか?」との問いに「もちろんでさぁ」と大風呂敷をひろげます。「出来なかったら店ごともらうぞ」と言われても全く気にせず、入ってくる銭で何を買おうかと、狸の皮算用ばかりしておりました。
ちょうど端午の節句が迫ってまして、お偉いさんからの注文内容が知らされました。それは、ちまきでした。
急いで準備を始めた息子ですが、ある材料がないことに気づきました。上新粉にもち粉、上白糖は、和菓子屋ですからもちろんたくさんあります。が、ちまきに一番大事なもの、笹の葉がないのです。
慌てた息子は考えに考え、追い出した親の家の裏に笹やぶがあったのを思い出したんです。急いで親の元を訪れると、開口一番。
「笹くれ!」
と叫んだそうです。
ささくれ小噺、いかがです?
え? ちゃうやん! て? そのささくれじゃない?
それならその続き。
いきなり帰ってきて叫んだ息子の意図が分からず目を白黒する親に、今度はもっと大声で叫びました
「さっさ(と)くれ〜!」
とな。
親不孝者のささくれ小噺でした〜。
ささくれ小噺 楠秋生 @yunikon
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