素直になって自分の中身をさらけ出さないと出られない部屋 〜双子のマトリョーシカ編〜

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　目を覚ますと、四方は曲がりくねった真っ黒な壁で囲まれていた。

　ほんの少し前まで、私はウクライナ人の彼氏と一緒に、憧れの地中海料理を食べていたはずなのに。

　私はマトリョーシカ。ロシア生まれの女子大生。

「マトリョーシカちゃんじゃない！」

「マトリョーシカちゃん！」

　隣にはモスクワの大学で勉強しているお姉ちゃんがいた。

　私の双子のお姉ちゃんだ。

　どうしてお姉ちゃんがここにいるの？

　それよりここは一体どこ？

　その時、声がした。地響きみたいな声が。

『お前たちは閉じ込められたのだ。素直になって自分の中身をさらけ出さないと出られない部屋に。双子のマトリョーシカよ』

　思わずお姉ちゃんを見ると、お姉ちゃんもこっちを見ていた。

「聞こえた？　マトリョーシカお姉ちゃん」

「ええ、聞こえたわ。マトリョーシカ」

　ちなみに私たちは双子な上に名前も同じマトリョーシカ。

　周囲はややこしいかもしれないけれど、私たちは特に困っていない。

　同じ名前でもどちらが呼ばれているかは大体文脈や上記でわかる。

　ちなみに、私はお姉ちゃんのことをお姉ちゃんだと思っているけど、お姉ちゃんは私のことをお姉ちゃんだと思っている。ややこしいよね。

　見た目もそっくりな私たちはロシア一番の双子だなんて言われた。

『お前たちが今いる世界はお前たち自身という「箱」だ。

　この外に出たければ、素直になって自分の中身をさらけ出すのだ。

　さすればお前たちはこの箱の外の世界へと出られるだろう』

　これはどこかで読んだデスゲームみたいな状況なのかしら。

　隣を見るとお姉ちゃんは声が降ってくる上方を見上げていた。

「どうしよう、お姉ちゃん？」

「この声が誰だかわからないし、この部屋が何なのかわからない。でも、外に戻って、自分の生活を取り返したければ、要求を飲むしかないのかも。――自分をさらけ出すだけ。今さら、マトリョーシカに隠し事なんてないもの」

「――そうだね」

　だけど少し不安だった。

　私たちは双子のマトリョーシカ。

　自分の中には二人の自分がいるのだ。

　私とお姉ちゃん。

　妹と姉の全く同じ二人のマトリョーシカが。

　そう、私たちは双子のマトリョーシカ。

『ずいぶんと短絡的なものだな。自分たちの判断が世界を破滅にいざなうとも知らずに』

「――どういうこと？」

『な〜に、いずれわかるさ』

　私とお姉ちゃんは顔を見合わせて、頷きあった。

「いくよ、マトリョーシカ」

「うん！　お姉ちゃん！」

　私たちの中には二人のずつのマトリョーシカがいる。

　それはまさに私たち自身。

　自分の中身をさらけ出したら。

　きっと彼女たちもまた、この黒い部屋に閉じ込められるのかもしれない。

　だけど、そこでどうするかは、彼女達が決めること。

　私たちは光を求めている。

　世界を求めている。

　氷の溶ける港から暖かな世界へと漕ぎ出したいのだ。

　私たちは素直になる。閉じ込めていた心の「箱」を開く。

　私自身の中から私たち自身であるところの双子のマトリョーシカが表れ出てくるのを感じる。

　それとともに私たちを包む黒い壁は崩壊していく。

　世界が広がっていく。

　祝福する声が天から降ってきた。

『おめでとう！　双子のマトリョーシカよ！　これで君たちはロシアの大地に戻ることができる！　さあ、世界を満喫後するがよい！』

　光が私たちを包んで、私とお姉ちゃんは微笑みを交わした。

　この箱の外に何が待っているのかわからない。

　また、大きな箱に閉じ込められているだけかもしれない。

　だけど私たちは行くのだ。

　私たちは双子のマトリョーシカだから。

　＊

　双子のマトリョーシカから、それぞれ二人ずつのマトリョーシカが現れる。

　彼女たちはそれぞれ違う暗闇の中にいた。

　この場を去った二人のことは忘れよう。

　ここから先は、彼女たちを主役にした物語を紡ぐのが適切だろう。

　彼女たちはそれぞれの空間で目を覚ます。

「……あれ？　ここはどこ……？」

　そして物語は分岐する――

　①　一人目のマトリョーシカから出てきた一人目のマトリョーシカの物語を読む。

https://kakuyomu.jp/works/16818093073480096699/episodes/16818093073480124675

　②　一人目のマトリョーシカから出てきた二人目のマトリョーシカの物語を読む。

https://kakuyomu.jp/works/16818093073480096699/episodes/16818093073480124675

　③　二人目のマトリョーシカから出てきた一人目のマトリョーシカの物語を読む。

https://kakuyomu.jp/works/16818093073480096699/episodes/16818093073480124675

　④　二人目のマトリョーシカから出てきた二人目のマトリョーシカの物語を読む。

https://kakuyomu.jp/works/16818093073480096699/episodes/16818093073480124675