【あなたの落とした箱はこの箱ですか?それとも金の箱ですか?】現代版~

ハンターシーカーアルゴリズム

第1話

その男は嘘をつくのが元来苦手な性質


勤めていた医療会社の不正を指摘してしまい会社をクビになったのだ。


再就職もままならず、貯金も尽き、誰にも迷惑を掛けずにあの世へ行けるかと山に分け入った。


綺麗な滝を崖上から見つけ、その滝壷に身を投げたら逝けるかなと下を覗いたが怖くなってしまい、崖上に震えながら座り込んだ。やはり人は、いざ死ぬとなると怖いのだ。


踏ん切りがつかない自分に情けなさを感じつつ、この綺麗な滝に名前はあるのかと検索しようとふと思いついた男がスマホを出したところ、スマホを落としてしまう。


「あー」


という情けない悲鳴を背にスマホは遥か下の滝壷に落ちていく。


四つん這いの情けない姿で滝壷を見つめる男。

が滝壷から光とともに女神が顕現し問うて来た。


「あなたの落とした箱はこの箱ですか?それとも金の箱ですか?」


女神様っっっ!?


男は驚愕した。


女神様と出会った事のある人間なぞネットでさえ見た事がない。

稀有な事に出会えた幸運に、死を望んでいた男の心にモリモリと生きる

気力が沸いて来た。


女神の右手には金色のスマホ、左手には私のおんぼろスマホがある。


「金の箱が私のです!」


男は生きる希望を見出していた。

そして私には今、金が無い。全く無い!


金のスマホを売れば人生をやり直す元手に出来る!


男は思わず嘘を思わずついてしまった事を後悔し、訂正しようと口を開けたが女神がそれを優しく手で制した。


「判りました、では金の箱を」


女神は慈愛に満ちた笑顔で金の箱(スマホ)を渡して来た。


女神との邂逅で男は生きる希望を取り戻し帰って行った。


女神はそんな男を見つめ喜んだ


男の不正の告発で多くの人命が喪われずに済んだのだ。それを知っていた女神は

絶望し、命を断とうとしていた男を救えた事に喜んでいた。


と、ここまでは良かったのだ。


一月が過ぎ・・・


ドチャアアアア。


女神の住む滝壷にゴミ箱にPCケースにブラウン管TV


ありとあらゆる箱っぽいものが投げ込まれる。


「女神ーーーーでてこーい」


生きる気力が蘇り再就職した男は金のスマホの写真とともに女神との逸話を〇イッターに上げるとそれがバズったのだ。


それを見たVチューバーが、DQNが、半グレが、普通のカップルが。

女神の住む滝壷にありとあらゆる箱を投げ込むようになった。


女神は男を助けた事を後悔し、その地を去った。

神の居ない地がまた増え、人を助ける神もまた一柱消えた。


現代において神の形跡を殆ど見る事がなくなったその理由である。

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