古校舎と美少女

「ねぇ、君。」

「え?」


ギルバートが学園内をさまよって1時間が経過し、入学受付までのこり1時間と少しとなった時、ギルバートの背後から、鈴を転がすようなさわやかな声が、歴史ある校舎らしい閑散とした校舎に響いた。


「こんなところでなにしてるの?みたところ新入生みたいだけど。」


声のしたほうを向いてみると、そこには絹のような艶やかさを持つ金髪を二つ結いにしている少女が、まるで元からそこにいたかのように佇んでいた。


「あ、ええっと、入学手続きをするために第1エントランスまで行こうと思ったんですけど、道に迷ってしまって…」

「あぁなるほど…どおりでこんな場所に新入生がいるのね。迷うのも仕方ないわ。この校舎、ちょっと広すぎるものね…」

「それにしても、案内人もつけずにこの学園を進もうなんて正気?」

「あ、あはは…」

「はぁ…わかったわ。私が君の案内人になってあげる。」

「えぇ!?いいんですか!?」

「何よ、私じゃ不満?それとももう少し一人でさまよってみる?」

「い、いえいえ!ありがとうございます!」

「よろしい。じゃあ、もう時間もないだろうし、さっさと行きましょうか。」

(よかったぁ…!これで何とか間に合いそうだ…!)


ただっ広い校舎の中で肝心の地図も当てにならないとなっては、もう終わったかと覚悟を決めそうになっていたギルバート少年にとって、正に棚から牡丹餅、古校舎に美少女の出来事であった。


それからしばらくして、第1エントランスが見え始めたころ、


「よし、ここまで来れば、あとはまっすぐ行くだけだから。」

「本当にありがとうございます!迷ったときには本当にどうしようかと…」

「ふふ。次はちゃんと案内人をつけることね。まぁ入学式を乗り越えたら、もう必要ないだろうけど。」

「どういうことですか?」

「この時期に新入生、しかも目的地が第1エントランスってことは、あなた特待生でしょう?」

「はい。でも、それがどう関係してるんですか?」

「特待生は初回の授業で悪魔と契約するからよ。」

「!悪魔と契約…」

「そこまで気を張るもんじゃないわ。推薦組なんだったら絶対契約できると思うし、もしできなかったとしても推薦取り消しみたいなことになるとは思えないから。」

「…そうですか…。」

「もう、そんなに心配しなくていいって!なんとなくだけど、あなたならうまくいけそうな気がするわ!」

「…はい!ありがとうございます!」

「ふふ。じゃあね。同じ学園の生徒になるんだから、また会ったときは、よろしくね。」


彼女はそう笑うと、未だに人でごった返しているエントランス前から離れていく。


「はい…あっ!ちょっとまってください!」

「…?なにかしら。」

「名前!僕の名前はギルバートです!」

「ギルバート…ね。覚えておくわ。私の名前はマリア。マリア・マティア。それじゃあ、今度こそさよなら。」

そういうと、彼女は今度こそ人海の中に消えていってしまった。

「マリア…さん。覚えておきます。あなたとの出会いは、何か意味がありそうだから。」


何か運命を感じていそうな雰囲気のところ申し訳ないのだが、少年よ。何か忘れていないか?




「…あっ!急がないと!受付までまだ時間あるよね!?」

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